憂鬱な金曜日の誘い
金曜日の終業時間間際、オフィスが少しそわそわし始めた頃でした。
「よーし、今夜も飲むぞ！若いの、全員参加だよな？」
部署全体に響き渡る上司の声。私はその声を聞いて、そっとカバンを引き寄せました。
正直なところ、私は大勢でお酒を飲むのがあまり得意ではありません。騒がしい場所よりも、家で静かに過ごしたり、親しい友人とゆっくり食事をしたりする方が好きなのです。
「あの、すみません。今夜は約束がありますので…」
私が恐る恐るそう伝えると、上司はあからさまに眉をひそめました。
「また？君、最近付き合い悪いんじゃないの」
その言葉は、私だけに聞こえるような、それでいて周りにも同意を求めるような嫌なトーンでした。
そして、追い打ちをかけるようにこう言ったのです。
「正直飲み会来ない人ってノリ悪いよね。チームの輪を乱してるって、わからないかな」
私は「申し訳ありません」と頭を下げるしかありませんでした。ノリが悪い、輪を乱す。そんな風に言われても、参加したくない気持ちは変わりません。
私は「お先に失礼します」とだけ告げて、逃げるようにオフィスを出ました。きっと今夜も、上司は深夜までお酒を飲んで、部下に同じ自慢話を繰り返すのでしょう。
自業自得の結末
そして週が明けた月曜日。
朝から上司の様子がおかしいことに気づきました。顔色は土気色で、デスクに座るなり大きなため息をついています。どう見ても、金曜日の深酒が抜けていない、ひどい二日酔いのようでした。
「うぅ…頭が痛い…」
そう呻いている上司を、私たちはまたかという冷めた目で見つめていました。
そして、悲劇は午前中の重要な会議で起こったのです。
その会議は、大きな取引先との大切な打ち合わせでした。上司がメインで説明するはずだったのですが、二日酔いのせいで頭が回らないのでしょう。しどろもどろで、質問にもまともに答えられません。
あげくの果てに、大事なデータを保存したUSBメモリを「金曜の夜にカバンに入れたはずなのに無い！」と騒ぎ出したのです。
結局、会議は散々な結果に終わり、上司は真っ青になっていました。
後でわかったことですが、そのUSBメモリは、金曜に上司が酔っ払って立ち寄った居酒屋のトイレに置き忘れてきたようでした。もちろん、データは戻ってきません。
「ノリが悪い」と私を責めた上司。
でも、仕事に支障が出るほどの深酒をして、大切なデータを失う。そんな上司の姿を見ながら、私は静かに思いました。
「本当にノリが悪いのは、一体どちらなのでしょうか」
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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