注意した男の正体
都内で事務職をしている27歳です。
お盆休みの最終日、新幹線のチケットが取れず、私は仕方なく深夜バスで東京へ戻ることに。
満席の車内は蒸し暑く、独特の静寂が支配しています。
私は通路側の席に座り、窮屈な体勢で眠りにつこうとしていました。
日付が変わる頃、最初のトイレ休憩のアナウンスが流れました。
体をほぐそうと立ち上がろうとした時です。
通路を挟んで隣の席の男性が、通路に大きく足を投げ出して熟睡していたのです。
跨ぐわけにもいかず、イライラが募り、私は少し強めの口調で声をかけました。
「すみません。足、どけてもらえます?」
男性はビクッと体を震わせ、「うわっ、すみません!」と慌てて足を引っ込めました。
その拍子に、深く被っていたキャップがずれ落ちました。
薄暗い車内の灯りに照らされたその横顔を見て、私は息を呑みました。
「え……嘘……」
全身の血の気が引きました。
そこにいたのは、高校時代に全校女子の憧れだった、2つ上の先輩だったのです。
最悪のバス旅だったはずが
私は高校3年間、彼にずっと片思いをしていました。
雲の上の存在だった彼に、まさか「邪魔だ」なんて文句を言ってしまうなんて。
私が硬直していると、彼も私の顔をじっと見つめ、驚いたように目を見開きました。
「あれ……もしかして、バスケ部の?」
覚えられていたことに驚愕しました。
「は、はい! お久しぶりです……すみません、偉そうに注意しちゃって」
「いや、俺が悪かった。足伸ばしすぎてたよな、ごめん」
彼は懐かしい少年のような笑顔で謝ってくれました。
険悪になりかけた空気は一変、私の周りだけピンク色の空気が流れ始めました。
「もしよかったら、休憩中、外でコーヒーでも飲まない?」
先輩からのまさかのお誘い。
サービスエリアの夜風に当たりながら、私たちは数年分の空白を埋めるように話し込みました。
偶然同じバスだったこと、彼も東京で働いていること。
「あの時、怒られてよかったよ。おかげで気がつけた」
そう言って笑う彼と連絡先を交換し、バスは再び東京へ走り出しました。
最悪のバス旅が、最高の再会の場に変わった奇跡のような夜でした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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