パワハラ上司
これは、私が以前勤めていた会社での出来事です。
私の部署には、典型的なパワハラ気質の男性上司がいました。
彼は自分の機嫌で部下を怒鳴りつけるのが日常茶飯事で、特に標的にされていたのが、その春に入社したばかりの大人しい新人君でした。
新人君は真面目な性格で、上司に怒鳴られている最中も、必死にメモを取るような姿勢を見せていました。
しかし、上司はそれが気に入らないのか、
「俺の話を聞いてるのか! メモなんて後でいいだろ!」
とさらにヒートアップするのがお決まりのパターンでした。
ある日の夕方、新人君が作成した資料に些細なミスが見つかりました。
修正すれば5分で終わるような内容でしたが、上司の虫の居所が悪かったのでしょう。
フロア中に響き渡る声で怒鳴り始めました。
「お前、何度言ったらわかるんだ? 大学出てるのにこんなこともできないのか?」
新人君は「申し訳ありません」と俯いていましたが、上司は止まりません。
そして、最後に吐き捨てるように言ったのです。
「はぁ……採用した時は見込みがあると思ったんだけどな。正直、お前『期待外れ』だよ」
その言葉を聞いた瞬間、新人君の手がピタリと止まりました。
彼はゆっくりと顔を上げ、無表情のまま
「……承知いたしました」
とだけ答え、その日は定時で帰宅しました。
新人のメモ
翌日、新人君は出社しませんでした。
上司は「これだから最近の若者は打たれ弱い。逃げたか」と鼻で笑っていましたが、昼過ぎに事態は急変します。
人事部長と数名のスタッフが、厳しい顔つきで私たちの部署にやってきたのです。
「〇〇課長(上司)、ちょっとよろしいですか。別室で話があります」
連れて行かれた上司は、その後、顔面蒼白で戻ってきて荷物をまとめさせられました。
後で聞いた話によると、新人君はその日の朝、退職届と共に「膨大な証拠データ」を人事部に提出していたのです。
実は、新人君が怒られている最中に必死に取っていたメモ。あれは業務のメモではなく、上司の暴言を「日時・場所・内容」まで一字一句記録した『パワハラログ』だったのです。
さらに、ポケットにはボイスレコーダーを常備しており、前日の「期待外れだよ」という発言もしっかり録音されていました。
「期待していたのに期待外れだったのは、管理職としての貴方の方です」
新人君が最後に添えた手紙には、そう書かれていたそうです。
結局、上司は懲戒処分となり、関連会社へ出向という名の左遷が決まりました。
大人しい顔をして着々と証拠を固めていた新人君。彼こそが一番の「食わせ物」だったのかもしれません。
職場は平和になりましたが、メモを取る新人を見ると少しドキッとしてしまう今日この頃です。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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