「僕が払えるよ」と言った留守番の小学生。子ども用の財布を開いた瞬間、新聞集金の私が固まったワケ
日をあらためるつもりだった、集金の夕方
10年ほど前、私は新聞を配り、月末には集金にも回っていました。
扱っていたのは、ほかより少し高めの新聞です。
読者にはゆとりのある家庭が多く、集金はたいていすぐに終わりました。
その日の夕方に訪ねたのは、庭の広い大きな一軒家でした。
インターホンから聞こえたのは子どもの声で、玄関の扉を開けたのは、小学3〜4年生くらいの男の子です。
「お父さんもお母さんも、まだ帰ってないです」
「そっか。じゃあ今日はいいよ。また来るね」
留守番をしている子どもから、その場でお金を受け取るつもりはありませんでした。
私は玄関の外でかがみ、会社の名前が入った集金かばんを見せました。
「新聞の集金で来たんだ。お家の人が帰ってきたら、来たことだけ伝えてもらえる?」
そう言いながら領収書を確認していると、男の子がそこに書かれた数千円の金額をのぞき込みました。
少し考えたあと、顔を上げます。
「これくらいなら、僕が払えるよ」
「えっ?いや、お家の人が帰ってからで大丈夫だよ」
ところが男の子は、「ちょっと待ってて」と言うと、家の奥へ走っていきました。
子ども用の財布を開いて驚いた
私は、きっと貯金箱の小銭でも持ってくるのだろうと思っていました。
ところが戻ってきた男の子の手にあったのは、マジックテープ式の子ども用財布です。
「これで払える?」
べりべりと財布を開いた瞬間、私は思わず中を見てしまいました。
小銭がたくさん入っているのかと思っていたのに、目に入ったのは何枚もの1万円札でした。しかも、どれもきれいに入っています。
男の子はその中から1万円札を1枚取り出し、私に差し出しました。
「これで足りる?」
「う、うん。足りるよ。じゃあ、お釣りを渡すね」
思わず返事が遅れてしまいました。
私は集金かばんからお釣りを出し、領収書と一緒に男の子へ渡しました。
思い出したのは、自分の財布の中身
そのとき、ふと集金かばんの横に入れてある自分の財布を思い出しました。
その朝、昼ごはん代を確認したときに入っていたのは、千円札2枚と小銭だけです。
もちろん、集金かばんの中にあるのは会社のお金。
それでも自分の財布だけを比べれば、目の前の男の子の財布より、ずっと心細い中身でした。
「領収書、お家の人に渡しておいてね」
「うん。お母さんに、ちゃんと言っとく」
男の子は領収書とお釣りを財布にしまうと、大事そうに胸の前で抱えました。
私は頭を下げ、門の外に止めていた自転車へ戻りました。
帰り道、集金かばんの横にある自分の財布を、布の上からそっと触ってみました。
やはり、ずいぶん薄い手ざわりです。
あの日見た何枚もの1万円札と、自分の財布の中身をつい思い出してしまったのでした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














