「いらねえよ、そんなもん」毎朝レシートを拒否する男性客。だが、レジ横の案内を見て慌てて床にかがんだ理由
毎朝「レシートはいらない」と言う男性客
学生だったころ、私は朝のコンビニでレジのアルバイトをしていました。
その店には、毎朝決まってパンを1個だけ買っていく男性客がいました。
いつも急いでいる様子で、お釣りを受け取るとすぐに立ち去ろうとします。
ある朝、私がレシートを差し出すと、男性は露骨に嫌そうな顔をしました。
「いらねえよ、そんなもん」
そう言ってレシートを手で押し返した拍子に、紙がカウンターから床へ落ちてしまいました。
「あ、レシートが…」
「いらないって言ってるだろ」
男性は床に目を向けることもなく、そのまま店を出ていきました。
仕方なく、私はレジの外へ回ってレシートを拾いました。
それからも、男性にレシートを渡そうとすると、決まって不機嫌な顔をされました。
「だから、いらないって」
そんな言葉を何度か聞くうちに、私は男性の会計ではレシートを渡さず、こちらで処分するようになりました。
できれば余計なやり取りをせず、買い物を終えてほしい。いつしか、そう思うようになっていました。
捨てたレシートを拾った男性客
そんなある朝、店でパンの割引キャンペーンが始まりました。
対象のパンを購入すると、次回の買い物で使える30円引きのクーポンがレシートの下に印字されるというものです。
レジの横にも、キャンペーンを知らせる案内が貼られていました。
その日も男性は、いつものようにパンを1個持ってレジに来ました。
会計を済ませると、レシートには割引クーポンが印字されていました。
普段はレシートを受け取らない男性ですが、この日はクーポンがついています。
私は念のため、声をかけようとしました。
「あの、今日はレシートに…」
ところが男性は、私の言葉を最後まで聞かずに手を振りました。
「いらないって。いつも言ってるだろ」
差し出しかけていたレシートを押し返され、紙がカウンターの端から床へ落ちました。
私は拾おうとしましたが、後ろには次のお客さんが並んでいます。
すると男性が、レジ横の案内に目を留めました。
「ん?パンを買うと30円引き?」
男性は案内を読み直すと、私のほうを向きました。
「おい、これ、俺ももらえるのか?」
「はい。今お買い上げいただいたパンも対象です」
「じゃあ、そのクーポンちょうだいよ」
私は少し戸惑いながら答えました。
「先ほどのレシートについているんですが…」
「え? さっきのレシート、どこ?」
私は男性の足元に視線を向けました。
「そこに落ちているレシートです」
男性は足元を見て、一瞬動きを止めました。
そこには、たった今、自分で押し返して落としたレシートがありました。
「……ああ、これか」
男性は小さくつぶやくと、その場にかがみ込みました。
そしてレシートを拾い上げ、下のほうに印字されたクーポンを確認しました。
「これ、次に来たとき使えるんだよな?」
「はい。次のお買い物から使えます」
「ああ、分かった」
男性はレシートを軽く伸ばしてから、上着のポケットにしまいました。
後ろにはまだお客さんが並んでいましたが、男性はそれ以上何も言わずに店を出ていきました。
翌朝、男性はいつものパンを持ってレジに来ると、前日に拾ったクーポンを差し出しました。
「これ、使える?」
「はい、大丈夫ですよ」
割引して会計を済ませ、私が新しいレシートを差し出すと、男性は何も言わずに受け取りました。
その後も男性は毎朝やってきましたが、レシートを押し返すことはなくなりました。
自分で拾ったことが気まずかったのか、割引クーポンが気に入ったのかは分かりません。
ただ、あれほど嫌がっていたレシートを、当たり前のようにポケットへしまう姿を見るたびに、私はあの朝の出来事を思い出すのでした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














