「お邪魔しますよ」漏水点検に同行したマンションオーナー。だが、点検を待っているオーナーが座った場所にドン引き
点検の日の出来事
「コンコン」と、ドアを叩く音。
数日前から告知されていた、マンションの漏水点検の日。
30代の私にとって、たとえ点検とはいえ、他人が家に入る時間はどうしても少し落ち着かない。
「お世話になります。今日はよろしくお願いします」
玄関先にいたのは、テキパキとした雰囲気の作業員さんと、この物件のオーナーさん。
オーナーさんと会うのは、入居時と更新の時以来、これで3度目。
「あぁ、お邪魔しますよ。ちょっと見させてもらうね」
オーナーさんは慣れた様子で室内へ。作業員さんがキッチンや洗面所を慌ただしく確認している間、手持ち無沙汰になったのか、オーナーさんは室内をゆらゆらと歩き回る。
私の部屋は決して広くはない。座れる場所といえばデスク用の椅子か、あとはプライベートなベッドくらい。
(オーナーさん、ずっと立っているのも疲れるかな。でも、ベッドに座ってもらうわけにもいかないし……)
私がどう声をかけるべきか迷っていた、その時。
「……よっこらしょ」
小さな声と共に、オーナーさんがどっしりと腰を下ろした。
その場所を見て、私は思わず驚きました。
そこ、座る場所じゃない…
そこは椅子でもソファでもなく、私が大切にしている「テレビ台」の上。
(えっ……!?そこ、座る場所じゃないんだけど……)
心臓の鼓動が早くなる。
そんな私の動揺など露知らず、オーナーさんはポケットからスマートフォンを取り出し、画面をスワイプし始めた。
テレビのすぐ横で、まるで公園のベンチにでも座っているかのようなリラックスぶり。
そのまま、沈黙の10分間。
私の視界には、お気に入りの家具と、そこに無遠慮に座り込むオーナーさんの背中。
2回しか会ったことのない他人に、自分の生活スペースを土足で踏み荒らされたような、えも言われぬ不快感。
(このまま黙って我慢する? でも、もし壊れたら? なにより、私の大切な家具なのに……!)
モヤモヤが限界に達したその時、私の中で何かが吹っ切れた。
「……あの、オーナーさん!」
精一杯の笑顔。けれど、声は低く、はっきりと。
「そこ、実は強度が全然ないんです。以前、重いものを置いただけで少し歪んでしまったことがあって……。もし今壊れて、オーナーさんが怪我でもされたら大変ですから! ぜひ、こちらの椅子を使ってください」
「えっ……! あ、ああ、そうなの?壊れやすいの?」
オーナーさんは弾かれたように立ち上がり、顔を真っ赤にして慌ててスマホをしまった。
「あぁ、ごめんごめん!丈夫そうに見えたから、つい。いや、失礼したね」
それからは、借りてきた猫のようにおとなしく椅子に座っていたオーナーさん。
点検が終わると、「いや、今日は急に失礼しました!」と、これまでにないほど丁寧な挨拶を残して、逃げるように帰っていった。
嵐が去った後の、静かな部屋。
私はすぐにウェットティッシュを取り出し、テレビ台を念入りに拭き上げた。
「……よし、ピカピカ」
ただ我慢して嫌な気分で終わるのではなく、自分の大切なものは自分で守る。
少しの勇気で手に入れた平穏な日常。
磨き上げたテレビ台は、心なしかさっきよりも輝いて見えた。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














