実の母が現れた
私は、夫と彼の連れ子である娘と三人で暮らしています。
娘は、夫の前の妻、つまり「元妻」が親権を手放した子でした。
私は、血の繋がらないこの娘の「本当の母親」になりたいと、必死に努力してきました。
毎朝、娘の好きなおかずを入れたお弁当を作り、学校の送り迎えも、どんなに仕事が忙しくても私がやると決めました。
最初は私を「新しいおばさん」と呼んでいた娘も、最近では「お母さん」と呼んでくれるようになり、笑顔も増えました。
私は、ようやく本当の家族になれた、と天にも昇る気持ちでした。
だから、あの日。
娘の学校の参観日で、あんなことが起きるなんて、信じられませんでした。
娘の隣で授業の様子を見守っていると、突然、見知らぬ女性が鬼の形相で私の前に立ちはだかったのです。
それが、夫の元妻、娘の実の母親でした。
「あんた、娘に近づかないで!」
彼女は、私に向かってそう怒鳴りました。
周囲の父兄たちが、驚いてこちらを見ています。
私は、あまりのことに声も出ませんでした。
(どうして? 娘を捨てたのは、あなたの方なのに) 私は、この娘のために、誰よりも努力してきたのです。
「あんた」呼ばわりされ、「近づくな」とまで言われる筋合いはありません。
その夜、夫にそのことを話すと、
「気にするな。あいつが一方的に出ていったんだ。お前は、あの子のたった一人の母親だよ」
と強く抱きしめてくれました。
その言葉で、私は自分の正しさを確信しました。
娘の本心
しかし、数日後のことです。
私が娘の部屋を掃除していると、机の引き出しの奥から、くしゃくしゃになった手紙が落ちました。
それは、娘が、私宛に書いたものでした。
『お母さん(私のこと)へ。 ママ(実母)のこと、わるく言わないでください。 お母さんが「お前は、あの子のたった一人の母親だよ」ってパパと話してるの、聞きました。 私は、今のお母さんも大好きです。でも、ママのことも、大好きです。 だから、ママに会わせてください』
私は、その手紙を握りしめたまま、その場に崩れ落ちました。
血の気が引いていくのが分かりました。
私は、娘の「本当の母親」になりたい一心で、無意識のうちに「実の母親」の存在を、娘の心の中から消そうとしていたのです。
「娘に近づかないで!」
あの言葉は、私という人間個人に向けられたものではありませんでした。 娘から「実の母親」との絆を奪い、自分だけのものにしようとしていた、私の身勝手な行動に向けられた、当然の叫びだったのです。
私は、自分の恐ろしい過ちに、その時ようやく気付きました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
******************
心に響くストーリーをもっと読みたい方
【他のおすすめ短編小説を見る】
******************
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
※本コンテンツのテキストの一部は、生成AIを利用して制作しています。














