家事は30分
「ただいまー」
と私がリビングのドアを開けると、ソファで寝転がっていた夫がスマホから目を離さずに言いました。
「おつかれー。あ、悪いけどご飯まだ? お腹すいた」
私は、保育園のお迎えから帰り、両手にスーパーの袋を提げ、背中にはぐずる息子の汗がじっとりと染み込んでいるというのに。
その一言で、私の何かがプツリと切れました。
「ねえ、少しは手伝ってくれてもいいんじゃない? こっちは朝から晩まで息つく暇もないのに」
そう言うと、夫は心底面倒くさそうに顔を上げました。
「えー、大げさだなあ。家事なんて30分で終わるだろ? 俺がやれば一瞬だよ」
このセリフ、何度聞いたことでしょう。
彼にとって家事とは
「洗濯機のボタンを押す」
「食洗機に入れる」
ことだけのようです。その前後にどれだけの「名もなき家事」が存在するか、彼は知りません。
夫の家事
チャンスは、翌週すぐにやってきました。
大学時代の友人の結婚式が、丸一日かけて遠方で開かれるのです。
「じゃあ、明日はよろしくね。子どもたちのお世話と、溜まってる家事、全部お願い。あなたなら30分で終わるんでしょ?」
夫は「任せとけって」と自信満々に笑っていました。
当日、私は少しの不安と大きな期待を胸に、久しぶりのヒールで家を出ました。
式の間はスマホの電源を切り、友人との再会を心から楽しみました。
そして夜。へとへとになりながらも、家の惨状を少し覚悟して玄関のドアを開けました。
するとそこには立ち尽くしている夫の姿が。
「ただいま…?」
まるで時間が止まったかのように、固まっています。
「どうしたの? 子どもたちは?」
声をかけると、夫は壊れたロボットのように、ゆっくりと私を振り返りました。
その顔は、見たこともないほどに疲れ切っています。
「……無理だ」
「え?」
「30分とか、絶対に無理だ。朝ごはん食べさせて、着替えさせて、公園に連れて行けって泣かれて、昼ごはん作って、昼寝しなくて、洗濯物干すの忘れてて、おもちゃ片付けなくて、お風呂入れたら……もう、何が何だか…」
玄関で固まっていたのは、夕飯の買い出しに行こうとしたものの、あまりのタスクの多さにフリーズしてしまっていたからだそうです。
その日以来、夫が「30分」という言葉を口にすることは二度とありませんでした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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