「いや、たまたま聞いただけですよ」話していない週末の予定を探る男性。私が笑って返せなくなった理由
挨拶を交わすだけだった配達の男性
三十代の私が働く事務所には、ほぼ毎日、同じ配達の男性がやって来ます。
午前中に台車いっぱいの箱を運び込み、受付で受け取りのサインをもらって帰っていく人でした。
入口にいちばん近い席にいる私が、いつもサインをする係です。
「おはようございます」
「今日は寒いですね」
交わす言葉といえば、その程度。重い荷物のときには置き場所を確認してくれる、感じのいい人という印象でした。
そんな男性の言葉が初めて気になったのは、ある月曜の朝です。
「日曜、駅前のカフェにいましたよね。見ましたよ」
突然そう言われ、私は一瞬返事に詰まりました。
「あ…そうだったんですね」
駅前は人通りも多い場所です。たまたま見かけただけだろうと思い、その日はそれ以上気にしませんでした。
金曜の朝、同じことを二度聞かれた
ところが、その週の金曜。男性は箱を下ろしながら、何気ない調子で聞いてきました。
「今週末、予定あるんでしょ」
「え?特にないですよ」
とっさにそう答えると、男性は笑いました。
「またまた。あるんでしょ」
同じことを重ねられ、私はうまく笑い返せませんでした。
実は翌日の土曜日、朝いちばんに一人で美容院を予約していました。
長く伸ばした髪を短くするつもりでしたが、その予定は職場では誰にも話していません。
もちろん、「週末に予定がある」というだけなら、誰にでも当てはまる話です。
それでも数日前に「カフェで見た」と言われたことが頭に残っていたせいか、妙に落ち着かない気持ちになりました。
聞いてみても、分からないままだった
翌週の月曜、男性が配達に来たとき、私は思い切って聞いてみました。
「この前、週末に予定があるって言ってましたよね。どうしてそう思ったんですか?」
男性は少し笑って答えました。
「いや、たまたま聞いただけですよ」
「誰かから何か聞いたんですか?」
「誰だったかな。忘れちゃいました」
それ以上の説明はなく、男性はいつものように箱を並べて帰っていきました。短くなった私の髪についても、何も言いませんでした。
その後も、男性が何かしてくることはありません。荷物は時間どおりに届き、置き場所も毎回確認してくれます。
ただ、私を駅前で見かけたことと、週末の予定を繰り返し聞かれたこと。その二つが重なってから、以前のように何も考えず接することはできなくなりました。
金曜に男性が「週末、楽しんでね」と笑うたび、私も「ありがとうございます」と返します。
台車の音が廊下の向こうへ消えていくのを聞きながら、あの質問は本当にただの世間話だったのだろうかと、今でも時々考えてしまいます。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














