「無理して食べなくてもいいんじゃない?」自分の皿を食べ終えた男性が彼女のパスタに手を伸ばした結果
自分の皿を食べ終えた男性が、次に手を伸ばしたのは
私が五十代で、飲食店の接客をしていたころの話です。
週末の昼過ぎ、店内が少し落ち着いた時間に、若いカップルが入ってきました。二人はメニューを見ながらしばらく相談し、それぞれ違うパスタを一皿ずつ注文しました。
料理を出して少したったころ、ホールを見回すと、男性の皿はすでに空になっていました。
一方、向かいに座る彼女の皿には、まだパスタがかなり残っています。
すると男性は彼女の皿へフォークを伸ばしました。
「これ、うまいね」
「うん…おいしいね」
彼女はそう答えましたが、自分ではまだ数口しか食べていません。
男性はそのまま何口か食べると、彼女の顔を見て言いました。
「もうお腹いっぱい?」
「いや、まだ…」
彼女が答えかけても、男性のフォークはまたパスタへ伸びます。
しばらくして、男性はもう一度言いました。
「無理して食べなくてもいいんじゃない?」
彼女は困ったように笑っただけでした。
私は少し離れたところでそのやり取りを見ていましたが、店員の立場で口を挟むことでもありません。ちょうど水が減っていたので、ピッチャーを持って二人の席へ向かいました。
彼女が頼んだのは、取り皿一枚だった
グラスに水を注いでいると、彼女が私を見上げました。
「すみません。取り皿を一枚もらえますか?」
「はい、すぐお持ちします」
取り皿を持って戻ると、彼女は残っていたパスタの一部をそこへ取り分けました。
そして、その皿を男性の前へ置きます。
「はい。食べるなら、こっちね」
男性は一瞬、彼女と取り皿を見比べました。
彼女は元の皿を自分の前へ引き寄せます。
「私もまだ食べたいから」
怒った口調ではありませんでした。ただ、今度ははっきりと言っていました。
男性は「あ、うん」と短く返し、それ以上、彼女の皿へ手を伸ばすことはありませんでした。
彼女はそのあと、残ったパスタをゆっくり食べていました。
食べ終わった皿を下げに行くと、彼女は私に笑いかけました。
「おいしかったです。ちゃんと食べられてよかった」
「ありがとうございます」
帰りぎわ、男性が先に店の外へ出ると、彼女は入口でこちらを振り返りました。
「取り皿、ありがとうございました」
私は「ありがとうございました」と頭を下げました。
強い言葉で責めるのではなく、取り皿一枚で自分の分をきちんと分けた彼女。その静かなやり方が、なぜか今でも印象に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














