「社会人ってほんと大変だよ」駅で友人だと思って話し続けた私。振り向いた相手の顔に固まった瞬間
新社会人の夜、話したいことが山ほどあった
3年ほど前、20代の私は社会人1年目で、慣れない一人暮らしを始めたばかりでした。
会社でのできごとを誰かに聞いてほしくて、うずうずしていた時期です。
その夜は歓迎会でお酒を少し飲み、ほろ酔い気分で駅に降りました。
改札に向かって歩いていると、目の前に見覚えのある後ろ姿がありました。
学生時代によく一緒にいた友人です。髪の長さも、かばんを右肩にかける癖も、ゆったりした歩き方も、間違えようがありませんでした。
こんなところで会えるなんて、と私の胸ははずみました。
改札の手前の通路は、仕事帰りの人で少し混み合っていました。
人のあいだをすり抜けて追いつき、半歩うしろから話しかけました。
「ねえ、ちょうど話したかったの。社会人ってほんと大変だよ」
相手は、こくりと小さくうなずいたように見えました。私は勢いづいて続けました。
「でね、指示を出す人が5人もいて大変なの」
「みんな言うことが少しずつ違うから、毎日メモ帳がまっ黒なの」
相手は相づちも打たず、前を向いて静かに歩いていました。
昔から、この子は黙って最後まで聞いてくれる子だった、と私はすっかり安心していました。
知らない人の、ていねいな会釈
歓迎会で出た料理のこと、部屋の洗濯機がうるさいこと。
私は5分近く、ひとりでしゃべり続けていました。相手が改札を通り、私もすぐうしろに続いて改札を抜けました。
「ごめん、私ばっかり話してるね。そっちはどう?」
そのとき、相手がゆっくりと振り向きました。見たことのない女性の顔でした。
女性は少しだけ困ったようにほほえみ、私にていねいな会釈をしました。
そのまま何も言わず、出口のほうへ歩いていきました。
私は口を開けたまま、改札の横で立ちつくしました。
ほろ酔いの気分は、どこかへ飛んでいきました。
気づくと私は、女性が向かったのとは反対の出口へ、早足どころか全力で走っていました。
部屋に着いて、本物の友人にメッセージを送りました。
「今日、あなたにそっくりな人に、5分も近況を話しちゃった」
しばらくして、友人から返事が届きました。読んだとたんに私はひとりで吹き出し、さっきまでの恥ずかしさが、少しだけ軽くなりました。
「で、その人、聞き上手だった?」
この話は、今では帰省するたびに家族の酒のさかなです。
父はグラスを置くと、決まって私に聞いてきます。
「で、その人にどこまで聞いてもらったんだ」
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














