「母さん、5万円分の旅行券だよ」80歳の誕生日、弟の贈り物を母がそっと押し返した理由
返ってこないまま、10年が過ぎた5万円
60代の私が、2つ下の弟にお金を貸したのは10年ほど前のことです。
仕事帰りに呼び出された喫茶店で、弟は申し訳なさそうに両手を合わせました。
「悪い、兄貴。給料が入ったら、すぐ返すから」
困っている弟を放っておけず、私は5万円を渡しました。
ところが、給料日を過ぎても何の連絡もありません。しばらくして私から尋ねると、弟は少し困った顔で言いました。
「今月はちょっと厳しくてさ。もう少し待ってよ」
それから何年かたち、もう一度聞いたときには、弟は笑いながら返しました。
「そんな昔の話、よく覚えてるな」
もちろん、私は忘れていませんでした。
そのころ弟は新しい車に乗りかえ、年に何度も旅行へ出かけていました。それでも私は、母に余計な心配をかけたくなくて、貸した5万円について話したことはありませんでした。
母の前に置かれた、5万円の旅行券
そんなある日、母の80歳の誕生日を実家で祝うことになりました。
居間のテーブルを囲んだのは、母と私、妻、そして弟の4人です。
ケーキを切り分けたころ、弟が白い封筒を取り出し、母の前へ差し出しました。
「母さん、5万円分の旅行券だよ。温泉でも行って、ゆっくりしてきてよ」
そして少し得意そうに、こう続けました。
「俺、こういうのはけちらないから」
5万円。
その金額を聞いた瞬間、ずっと黙っていたことが口をついて出ました。
「…ちょうど5万円だな。10年前に俺が貸したのと、同じ額だ」
弟の笑顔が消えました。
母も封筒へ伸ばしかけた手を止め、弟を見ます。
「えっ。借りたままなの?」
弟は目をそらしたまま、何も答えません。
少しの沈黙のあと、母は封筒を弟のほうへそっと押し返しました。
「それなら、これは受け取れないわ」
そして静かに続けました。
「まず、お兄ちゃんに返しなさい」
弟は顔を赤くし、押し返された封筒を手にしたまま、うつむいていました。妻は何も言わず、母の湯のみにお茶を注ぎ足しました。
それから1週間後、私の口座に5万円が振り込まれました。
10年越しに戻ってきたお金を確認しながら、私はようやく、この話に区切りがついたような気がしました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














