「こんな空論、持って帰れ!」私を追い返した取引先が社長の前で手のひら返し。だが、あの日の表紙で顔色が変わる
1分もくれなかった人
2年前、取引先の松井さんは私の企画書を突き返しました
社員3人の小さな会社で、天気と曜日からお総菜を作る量を割り出す仕組みを作っています。
2年前、売り場のPOPのデータ作りを請けていた地元のスーパーで、仕入れ担当の松井さんにその仕組みを売り込みました。
松井さんは企画書をめくりもせず、赤ペンで表紙にさっと走り書きすると、机の上を滑らせて私に返しました。
「こんな空論、持って帰れ!」
「1分だけ、説明をさせてください!」
若い人の夢物語に付き合う暇はない、と松井さんは席を立ち、POPの仕事も打ち切られました。
2年後、松井さんは社長を連れて私の会社に来ました
半年は給料を払うのがやっとでしたが、別のスーパーが仕組みを使ってくれ、売れ残りが半分になったと新聞に載りました。
2年後、松井さんから、社長と伺いたいと電話がありました。お店の売れ残りが増え、経営が苦しいそうです。
応接スペースで、松井さんは社長の隣から身を乗り出しました。
「私は最初から推してたんです」
「…最初から、ですか?」
昔の話は水に流そうと言われ、私は黙ってしまいました
いい技術だと本人にも伝えた、反対したのは前の店長だ、と松井さんは社長に話します。その店長は、もう異動したそうです。見つけたのは私ですから窓口も私が、と胸を張りました。
「あの日は、松井さんが…」
言いかけた私を、松井さんが笑顔でさえぎります。
「昔の話は、水に流そう」
社長も、先の話をしましょう、とうなずきます。ここで昔の話を蒸し返しても、大人げなく見えるだけです。
「…はい」
2年後の応接スペース
企画書は自分が上に回したと、松井さんは言いました
松井さんは安心したように、背もたれに片腕をかけました。
「企画書は、私が上に回したんです」
社長にもぜひ見ていただきたい、と松井さんは続けます。私は立ち上がりました。
「では、お見せします」
奥の棚へ向かう私に、刷り直しで構わないよ、と松井さんの明るい声が届きました。
表紙には「無能の空論。上に回すまでもない」とありました
棚から出したのは刷り直しではなく、2年前に机の上を滑ってきた、あの企画書そのものです。悔しさを忘れないよう、しまってありました。表紙を上にして、社長の前に置きます。
表紙には、赤ペンの走り書き。『無能の空論。上に回すまでもない』。
「そ、それは…」
「表紙の赤い字は、松井さんの字です」
上に回すまでもない、と書いた本人が、上に回したと言っているのです。
あの日と同じように、私は企画書を松井さんへ返しました
社長が顔を上げ、松井さんを見ました。松井さんは肩をこわばらせ、目だけを泳がせます。
「じょ、冗談で書いたんだ!」
冗談でも、最初から推していた人が書く言葉ではありません。私は企画書を、あの日と同じように机の上で松井さんへ滑らせました。
「空論は、持ってお帰りください」
社長は立ち上がって私に深く頭を下げ、窓口は別の者に、改めて私が伺います、と言いました。ソファには、口を開いたまま動けない松井さんだけが残されました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














