「子どもなんだから、いいじゃないですか」足湯でお湯をはねさせる父親。直後、自分のズボンがぬれて表情が一変
足湯のふちで、ひざにかかったお湯
ひとりで温泉旅館に泊まったときの出来事です。
夕方、庭にある足湯へ行くと、宿泊客たちが湯船のふちに腰を下ろし、静かに庭の景色を楽しんでいました。
僕もズボンのすそをまくり、空いている場所に座りました。温かいお湯に足を入れ、ほっとひと息ついていたときです。
小学校低学年くらいの男の子たちがやってきました。
あとから来た父親も、湯船の端に腰を下ろします。
「お父さん、見てて!」
「おう、見てるぞ」
男の子たちは楽しそうに笑いながら、お湯の中で足をばたばたと動かし始めました。
最初は少し水面が揺れる程度でしたが、だんだん勢いが増し、周囲にお湯が飛び散るようになりました。
「うわっ…」
僕も思わず体を引きましたが、間に合いません。ズボンのひざのあたりにお湯がかかり、濡れたしみが広がってしまいました。
ほかの客たちも服にお湯がかかり、困った様子で座る場所をずらしています。
ところが、父親は男の子たちを見ながら笑っているだけでした。
見かねた年配の女性客が、遠慮がちに声をかけました。
「すみません。お湯がかかるので、もう少し静かにしてもらえませんか?」
すると父親は、笑顔のまま答えました。
「子どもなんだから、いいじゃないですか。せっかく旅行に来てるんですし」
「でも、服がぬれてしまって…」
「ちょっとぬれたくらい、すぐ乾きますって」
そう言われてしまうと、女性客もそれ以上は何も言えない様子でした。
僕もせっかくの旅行なのに、嫌な気分になってしまいました。
父親にもお湯がかかった直後、スタッフが現れた
それからも男の子たちは、足をばたばたと動かし続けていました。
すると突然、大きくはねたお湯が父親のほうへ飛んでいったのです。
「うわっ!」
父親は慌てて体を引きましたが、まくり上げていたズボンのひざ下までお湯がかかってしまいました。
さっきまで笑っていた父親も、濡れたズボンを見下ろして顔をしかめています。
自分で「すぐ乾く」と言ったばかりなのに、いざ自分がぬれると、笑ってはいられなかったようです。
ちょうどそのとき、作務衣を着た男性スタッフが見回りにやってきました。
男の子たちはまだ足を動かしていて、お湯が周囲にはねています。
それを見たスタッフは、父親のそばで足を止めました。
「お客様、恐れ入りますが…」
そして、落ち着いた声で伝えました。
「足湯ではお湯をはねさせないようお願いいたします」
父親は一瞬、返事に詰まった様子でした。
スタッフは続けて、
「ほかのお客様のお召し物も、ぬれてしまいますので」
と、周囲の客たちにも目を向けました。
父親は自分のズボンを見下ろしたあと、男の子たちに声をかけました。
「…ほら、上がるぞ」
男の子たちは不思議そうな顔をしていましたが、素直に足湯から上がりました。
父親も濡れたズボンのまま、足早に庭を去っていきました。
その後、スタッフは服が濡れた客たちに謝り、乾いたタオルを手渡してくれました。
僕もひざを拭き、もう一度ゆっくりと足をお湯に入れました。
ようやく戻ってきた静けさに、ほっとしました。
子どもたちが旅行ではしゃぐ気持ちは分かります。ただ、周りにも同じように温泉を楽しみに来ている人がいます。
自分がお湯をかぶって初めて表情を変えた父親の姿が、今でも印象に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














