「近所で暇でしょ、次も椅子並べて」新幹線で3時間かけて来たと威張る合唱仲間。配らせたお土産でうつむいた
一人で並べた60脚の椅子
古株の女性は、新幹線で3時間の田舎から来たと言いました
地域の合唱サークルに入って、もうすぐ1年。年に一度の発表会は、11月の日曜日に公民館の小ホールで開かれます。
出演する仲間は6人。午前11時の開演に向けて、客席には60脚の椅子を並べることになっていました。
朝の会場準備は、私と古株の女性の2人が当番でした。ところが前の晩、彼女から連絡が来ました。母の引っ越しの手伝いで、明日は新幹線で3時間の田舎にいる。本番には間に合わせる、というのです。
私は朝から一人で、台車を使いながら椅子を60脚並べました。
開演の1時間前、ホールの扉から、茶色い紙の箱を抱えた彼女が入ってきました。
「新幹線で3時間、急いで来たの。」
「お土産、乗る前に向こうの駅で。」
別の仲間が、遠いのにありがとう、と手をたたいて迎えました。
古株の女性は、近所で暇な私に次の当番もやれと言いました
彼女は、うれしそうに胸を張りました。
「新幹線を降りて、まっすぐ来たの。」
先ほどの仲間が、えらいねえ、と目を細めます。彼女は、私の方へ向き直りました。
「近所で暇でしょ、次も椅子並べて。」
来月のクリスマス会の当番まで、私にやれというのです。
仕事があると返した私は、仲間の前で目を伏せました
来月は仕事が入っていて、と小声で返すと、最後まで聞かずに彼女の声が高くなりました。
「遠くから駆けつけた人に、それ言う?」
先ほどの仲間まで、困った顔で私を見ます。家族の用事と言われると、反論しづらくなりました。しかも、相手はサークルの古株です。入って1年ほどの私には、皆の前で言い返す勇気がありませんでした。
私は口を一文字に結び、目を伏せました。
遠くから駆けつけた古株
古株の女性は、お土産の箱を開けて回すよう私に頼みました
彼女は、私の前の長机に箱を置きました。ふたは閉じたままです。
「お土産、開けて皆に回しといて。」
私は黙って、箱のふたに手をかけました。
ふたを開けると、豚まんから白い湯気が立ちのぼりました
頼まれたとおり、ふたを持ち上げたとたん、箱から白い湯気がもうもうと立ちのぼりました。中には、白い豚まんが6つ並んでいます。
私は思わず手を止めました。11月の朝に、保温する袋もなく、紙の箱だけで3時間運んだというのに、豚まんは温めたばかりのようでした。
もちろん、途中で温め直した可能性もあります。しかし彼女は、向こうの駅で買い、新幹線を降りてまっすぐ来たと話していたのです。
「3時間前の豚まんは湯気を立てません。」
彼女は、湯気を見たまま眉を寄せました。
嘘を認めた古株の女性が、60脚の椅子の片付けを担当することになりました
「着いた駅で、温め直したから!」
「まっすぐ来た人は、お店に寄れません。」
先ほどまで彼女をほめていた仲間が、不思議そうに顔を上げました。
彼女の説明は、最初に聞いた話と違っています。仲間たちも、どこの駅で温め直したのか、いつ買ったのかと気になり始めました。
すると彼女は箱を見下ろしたまま口を引き結び、角のお店で、さっき、と小さく言いました。
豚まんは、公民館の近くのお店で買ったものだったのです。ただ、それだけでは新幹線に乗っていなかった証拠にはなりません。
私たちが詳しい事情を尋ねると、彼女はしばらく黙り込んだあと、ようやく本当のことを話し始めました。
母の引っ越しの手伝いは来週で、今朝は自宅にいたというのです。遠方から戻ってきたという話も、すべて嘘でした。
当番を休んだことを責められず、遠くから駆けつけた人としてほめられたかったのでしょう。
私は、朝から一人で60脚の椅子を並べたことを改めて伝え、終演後の片付けは彼女に中心となって担当してほしいとお願いしました。重い椅子の運搬は、ほかの仲間も手伝うことになりました。
来月の当番は、改めて皆で決めましょう。そう提案すると、先ほどの仲間もうなずきました。
あごを上げて胸を張っていた彼女は、肩をすぼめてうつむきました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














