ミシュランガイドより引用
ホテルの新たな格付けとして世界中で話題となった「ミシュランキー」。
その中でも「素晴らしい滞在(An exceptional stay)」を意味する「2キー」を獲得した、ごくわずかな宿が日本に存在します。
北海道、冬には世界中からスキーヤーが集まるニセコエリアのさらに奥。手つかずの原生林に、その宿は静かに佇んでいます。 その名は「坐忘林(ざぼうりん)」。
「林に囲まれ、坐して忘れる」。
名前からしてただならぬ雰囲気を醸し出すこの宿は、一体何がすごいのか?なぜ、ミシュランは最高級の評価を与えたのか?
ミシュランガイドの公式解説を紐解くと、そこには、私たちが抱く“日本の高級旅館”のイメージを根底から覆す、革新的な思想と究極の贅沢がありました。
「伝統を壊す」ことから始まる?ミシュランが見出した“新しい旅館”の形
多くの高級旅館が、その歴史や伝統を誇りとしています。しかし、ミシュランガイドは「坐忘林」を、こんな挑戦的な一文で紹介しています。
「日本の旅館は素晴らしいおもてなしの伝統ですが、何でもかんでも過去を尊重すべきというわけではありません。」
これは衝撃的な言葉です。つまり、ミシュランがこの宿を絶賛する理由は、古き良き伝統を守っているから「だけ」ではない、ということ。
むしろ、伝統を尊重しつつも、大胆に現代の感性を取り入れた「徹底的にモダンな旅館」である点にこそ、その真価があるのです。
私たちは「高級旅館=純和風」というイメージを抱きがちです。しかし坐忘林は、現代建築家・中山眞琴氏によるミニマルで美しい建築の中に、日本の旅館文化の本質を再構築しています。
これは、日本の「RYOKAN」が、世界基準の「デスティネーションホテル」へと進化を遂げた姿なのかもしれません。
「坐して忘れる」― 宿の名に込められた、究極の体験
この宿のコンセプトは、その名前にすべてが集約されています。
「『林に囲まれ坐して忘れる』という名が示すごとく、瞑想へと誘うようなムードを醸しています。」
ここは、アクティブに観光地を巡るための「拠点」ではありません。
北海道の原生林に抱かれ、日常の喧騒、時間、そして自分自身さえも「忘れる」ほどの静寂に身をゆだねる。
この宿に滞在すること自体が、旅の唯一無二の「目的」となる場所なのです。
雪に覆われる冬、花々が咲き乱れる春、燃えるような紅葉の秋。計算され尽くした窓や通路から切り取られる四季折々の風景は、それ自体がアート。
情報過多の現代社会で疲れ果てた私たちにとって、「何もしない」ということが、これほど贅沢な体験になるのだと、この場所は教えてくれます。
わずか15室。全室に「源泉かけ流しの露天風呂」という異次元の贅沢
坐忘林のプライベート感は、まさに異次元のレベルです。客室は、それぞれが独立したヴィラタイプの15室のみ。
他の宿泊客の気配をほとんど感じることなく、自分たちだけの時間に没頭できます。
そして、日本の宿の真髄とも言える温泉。そのこだわりも徹底しています。
「全客室に湯が引かれ、源泉かけ流しの内湯と露天風呂を楽しめます。」
大浴場に行く必要はありません。自分たちの客室で、24時間いつでも、誰にも邪魔されず、正真正銘の源泉かけ流しの湯を堪能できるのです。
これは、温泉好きにとって究極の夢と言えるでしょう。 室内には最新のBluetoothサウンドシステムが備えられ、寛ぎ着としてオリジナルの作務衣が用意されている。
そんなモダンと伝統の融合も、この宿ならではの心地よさです。
世界が認めた、ここでしか味わえない「北海道ガストロノミー」
空間や温泉が最高なだけでは、ミシュランの評価は得られません。旅のもう一つの主役、「食」もまた、最高レベルに達しています。
「世界で研鑽を積み、地元北海道で腕を振るう瀬野嘉寛料理長に感謝です。」
ミシュランガイドが名指しで料理長に賛辞を贈るのは、異例のこと。それだけ、この宿の食体験がずば抜けている証拠です。
「芸術的な懐石料理」と評されるその料理は、北海道の豊かな大地と海が育んだ最高の食材を、世界レベルの技術で昇華させたもの。
ここでしか味わえない「味の記憶」もまた、忘れられない旅の一部となります。
まとめ:ここは、未来の日本の宿の“道しるべ”
坐忘林がミシュランから高く評価されたのは、ただ豪華だからではありません。
日本の旅館文化の魂を尊重しながら、現代的な建築美、究極のプライベート空間、そして世界レベルの食を完璧に融合させた、全く新しい「日本の宿」の形を提示したからです。
それは、これからの日本の宿が世界と伍していく上での、一つの完成形であり、輝かしい道しるべなのかもしれません。