後輩からの突然のLINE
あれは、週明けの月曜日、時計の針が午後3時を回った頃でした。
外回りから戻り、デスクで溜まったメールを必死にさばいていると、ポケットに入れていたスマホが短く震えました。
通知画面に表示された名前に、私は少しだけ頬をゆるめます。
一回り年下の、弟みたいに可愛がっている後輩でした。
(休憩中に何か面白いことでもあったのかな?)
そんな軽い気持ちでトーク画面を開いた私の目は、次の瞬間に固まりました。
「もう無理です」
たった一言。
それだけが、ぽつんと送られてきていました。
「え?」
声が出ました。何が? どういうこと?
昨日まで「先輩のおかげで仕事楽しいです!」と屈託なく笑っていた彼です。冗談には思えませんでした。
心臓がドクドクと音を立てます。
「どうしたの!? 何があったの!?」
慌てて文字を打ち込み、すぐに電話をかけました。
しかし、出る気配はなし。
背中に嫌な汗が流れました。まさか、仕事で何かとんでもない失敗をしてしまったとか…? それとも、誰かに何か言われた?
上司に報告すべきか、いや、でも…と一人でパニックになりかけた、その時です。
再び、スマホが震えました。
彼からでした。
「よかった、連絡取れた…!」
ホッと胸をなでおろし、急いで画面を開いた私は、今度こそ本当に言葉を失いました。
まさかの長文
「拝啓。
突然のご連絡、誠に失礼いたします。
この度、一身上の都合により、本日をもちまして退職させていただきたく存じます。
これまでご指導ご鞭撻いただき、心より感謝申し上げます。
多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。
末筆ではございますが、皆様のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます。
敬具」
……え?
あまりにも丁寧すぎる、まるでビジネスメールの例文のような文章。句読点の使い方まで完璧です。
さっきの「もう無理です」とのギャップに、頭がついていきません。
でも、私はすぐに察してしまいました。
(ああ、これは彼が書いた文章じゃないな…)
彼の隣には、いつも彼を厳しく管理している「彼女」がいます。飲み会に参加することすら、彼女の許可がいるのだと、以前彼は困ったように笑っていました。
きっと、あの「もう無理です」は、彼が必死に絞り出した本音だったのでしょう。仕事のことか、彼女のことか、それは分かりません。
ですが、その本音は、彼の隣にいたであろう彼女によって、この「完璧で丁寧すぎる」退職の挨拶に上書きされてしまったのです。
私は、もう一度彼に電話をかけるのをやめました。きっと、電話に出るのも「彼女」でしょうから。
彼の本音がどこにも届かないまま消えていくようで、私はただ、スマホの画面を呆然と見つめることしかできませんでした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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