「レジに誰もおらんかったんじゃ」隣の店の商品を持ってきた男性。数日後、店員から聞いた事情
隣の店の商品を持ってきた男性
テナントの衣料品店で働いていたころの話です。
隣の店とは会社が違い、レジも会計も別々でした。
平日の昼下がり、三十代だった私は一人で店番をしていました。そこへ年配の男性のお客様が来て、箱をひとつカウンターに置かれました。
見ると、ついているのは隣の店の値札です。
間違えてこちらへ持ってきたのだろうと思い、私は声をかけました。
「すみません。隣の店の商品は、こちらのレジでは通せないんです」
すると男性は、少し困ったように言いました。
「レジに誰もおらんかったんじゃ。だから隣に持ってきた」
声を荒らげられたわけではありません。
それでも当時の私は、「こちらではどうにもできないのに」と少し身構えてしまいました。
「申し訳ありません。あちらのレジでお願いできますか」
男性は箱を持ち直すと、そのまま隣の店へ戻っていきました。
私はその後も、男性の言葉が少し引っかかっていました。
間違えて店を訪れたうえに、こちらへ困ったように言われても……と、どこか納得できない気持ちが残っていたのです。
数日後に聞いた、隣の店の事情
数日後、開店前の通路で隣の店の方と顔を合わせました。
何気なく話していると、その方が昼の人員についてこんな話をしました。
「うちは昼の交代で、3分ほどレジが空くことがあるんです、完全に見えないわけではないんですけど、どうしても引き継ぎとかで」
「え、そうなんですか」
「昼はどうしても人が薄くなって。すぐ戻るんですけどね」
その言葉を聞いた瞬間、私は先日の男性を思い出しました。
あの日も、たまたまその時間に重なっていたのかもしれません。
男性が言った「誰もおらんかった」という言葉を、私は最初から言い訳のように受け取っていました。
けれど、本当にレジの前に店員がいない時間があると知ると、見え方が変わりました。
見えていたのは、こちら側の事情だけだった
もちろん、隣の店の商品をこちらで会計することはできません。
私の案内自体が間違っていたわけでもありません。
それでも、相手にも何か事情があるかもしれないと考える余裕はなかったのだと思います。
それ以来、同じようなことがあったときには、すぐに間違いだと決めつけず、「お待たせしましたか」と一度聞くようになりました。
こちらにはこちらの事情があり、相手には相手からしか見えない事情がある。
あの日の出来事は、それを思い出させてくれました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














