
「お客様、それ…まだお会計前でして…!」レジ新人が捕まえたのはまさかの"全国指名手配"!?[短編小説]
「お客様、それ…まだお会計前でして…!」
私はその日、レジ担当として、人生最大の修羅場に立たされていた。
問題の“お客様”は、60代くらいの男性。無言でレジに並び、なぜかこちらを睨みつけてくる。腕にはスーパーのエコバッグ、すでにパンパンに何かが詰まっている。
「こちらの商品、どちらで…?」
私が勇気を出して聞くと、男は一言。
「……買った」
でも、その商品、うちのレジ通ってないんです。バーコードの印字もレジ袋の跡もない。なのに「買った」の一点張り。
「念のため、防犯カメラを確認しても…」
そう言った瞬間、男はエコバッグを置き、店を飛び出した。
え? 逃げた…? まさか、万引き!?
店長がすぐに通報。警察がやってきてカメラを確認したところ、なんと男、冷凍うなぎ10パックを袋に詰め、そのままレジを素通りしていた。
でも、そこで終わらなかった。
警察の一人が言った。
「…この顔、どこかで見たことあると思ったら――」
その男、指名手配中の詐欺師だった。
全国指名手配で逃げ続けていたが、よりによって、スーパーで冷凍うなぎの万引きで捕まるとは。ニュースにまでなり、うちのスーパーも一躍有名に。
で、私――新人レジ打ちの佐伯、
初めて通報の判断をしただけなのに、警察署から「適切な対応、ありがとうございました」と感謝状をもらってしまった。
冷凍うなぎの冷たさと、あの男の鋭い目が、今も時々夢に出る。
だけどそれ以来、レジ業務のときはいつもちょっとだけ背筋が伸びる。
だって私は――
「冷凍うなぎで詐欺師を捕まえた店員」なんだから。