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2026.08.20(Thu)

「玄関の前まで、猫が集まってくるんです」勝手に野良猫に餌をあげていた住人。だが、思わぬきっかけで状況が一変

「玄関の前まで、猫が集まってくるんです」勝手に野良猫に餌をあげていた住人。だが、思わぬきっかけで状況が一変

言えないまま、季節だけが過ぎた

団地に住んでいたころ、同じ棟の上の階の方が、野良猫に餌をやっていた。

おかげで棟の周りには、いつも猫がいた。

植え込みの陰、階段の下、自転車のサドルの上。動物が苦手な私は、外に出るたびに身を固くしていた。

「玄関の前まで、猫が集まってくるんです」

同じ階の方が、ため息まじりにそう言った。

分かります、と返しながら、私はその先を言えなかった。

「うちも、洗濯物のそばまで来ていて」

集まればその話になるのに、そこから先へは進まない。

誰の口からも、あの方の名前だけは出なかった。

ここは、動物を飼うことが禁止されている。

だから外の猫をかわいがっていたのだろうと、みんな察していた。

ただ、その方はとても穏やかで、親切な人だった。

回覧板も掃除当番も丁寧で、廊下ですれ違えば必ず先に挨拶をしてくれる。

そのこと以外で困らされたことは、まったくなかった。

だからこそ、猫のことだけを切り離して伝える言い方が、どうしても見つからなかった。

「あの方に、誰か言いますか」

そう聞かれても、手が挙がらない。悪意のある人ではないと知っているぶん、口にすれば自分が冷たい人間になったように感じられた。

結局、話はいつも途中で消えた。

その日、団地が動いた

変わったのは、ある日の騒ぎがきっかけだった。

網戸のすきまから猫があるお宅に入り込み、和室の押し入れで子猫を産んでいたのだ。

「押し入れを開けたら、いたんです」

そのお宅の方は、まだ驚きが抜けない様子だった。人に慣れきっていたから、家の中まで平気で上がってきたのだろう。棟の中は、その話でもちきりになった。驚きと戸惑いだけが、廊下じゅうに広がっていた。

「餌をやる人がいるから、こうなるんですよ」

声を荒らげる方もいた。

長いあいだ誰も口にしなかったことが、堰を切ったようにあふれ出していた。

話は自治会へ持ち込まれ、集会所で話し合いの場が持たれた。

誰が悪いという話ではなく、これからどうするかという話として進んだ。

順番に手が挙がり、みんなが同じことを思っていたのだと、そこで初めて分かった。

出た結論は、団地の敷地で餌をやらないこと。それが決まりとして、きちんと文字になった。

「これなら、誰も気を遣わずに済みますね」

帰り道、そう言い合った。誰かが責められて終わったわけではない。

言えないまま抱えていたものが、やっと置き場所を見つけた。それだけのことが、こんなにも軽い。棟の前を通っても、もう身を固くしなくていいのだと思った。

※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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