「券、確認しないんだ…」私の指定席にいた男性。声をかけた直後、男性が券も出さず立ち上がって向かった先
指定席に知らない男性が座っていた
十年ほど前、友人と旅行へ出かけたときのことです。
新幹線に乗り、自分たちの指定席まで行くと、私の席には中年の男性が座っていました。
一瞬、自分が車両か座席番号を間違えたのかと思いました。手元の券を見て、頭上の番号を確認します。
けれど、何度見ても間違っていません。
友人も隣の指定席を取っていたので、私は男性の横に立ったまま、どう声をかけようか迷いました。
知らない人に「そこは自分の席です」と言うのは、思っていた以上に緊張するものです。
それでも、このまま立っているわけにもいきません。私は意を決して声をかけました。
「あの、すみません。ここ、私の席なんですが…」
男性は券を確認しなかった
男性は私のほうを見ました。
私はてっきり、ポケットや鞄から指定席の券を出して、座席番号を確認するのだと思っていました。
ところが、男性は何も言いませんでした。
券を探す様子もありません。
少しすると、自分の荷物を持って立ち上がり、そのまま通路を歩いていきました。
私は思わず、その背中を目で追いました。
急いで逃げるわけでもなく、こちらに何か言うわけでもありません。ただ普通の速さで歩き、やがてデッキの扉の向こうへ消えていきました。
隣にいた友人も、しばらく黙っていました。
そして席に座ると、小さな声で言いました。
「……行っちゃったね」
「うん。券、確認しなかったよね」
「なんだったんだろう」
私にも分かりませんでした。
理由が分からないまま、今も覚えている
男性が単に席を間違えていただけなのか、それとも別の理由があったのかは分かりません。
結局、降りるまでその男性をもう一度見かけることもありませんでした。
大きなトラブルになったわけでもなく、怒鳴られたわけでもありません。
それなのに、券を確かめることもなく、何も言わずに立ち去った男性の姿だけは、十年ほどたった今でも妙に覚えています。
友人と旅行の話をするときも、ときどき「あの人、なんだったんだろうね」と話題になります。
理由が分からなかったからこそ、かえって記憶に残っている出来事なのかもしれません。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














