「子供なんていません!何かの間違いでは?」騒音の苦情の手紙を真上の住人に送った。だが、意外な犯人に思わず笑った
手紙を入れた朝
その手紙を真上の部屋に投函したとき、私は半分ほっとしていた。
これで朝の地獄から解放される。そう思っていた。
住んでいたのは、築40年ほどの木造アパートの2階。真上へ住人が越してきてから、毎朝6時過ぎになると、子どもが走り回るような音と振動が天井いっぱいに響くようになったのだ。
「うわ、また6時か…まだ寝てたいのに」
「ドタドタうるさいって、子どもに少しは言い聞かせてよ」
天井に向かってつぶやくのが日課になり、寝不足が積み重なっていく。それでも怒鳴り込むのは気が引けて、私は丁寧な手紙を選んだ。
眠れずに困っていること、改善しなければ管理会社に相談させてもらうこと。角の立たないよう、言葉を選んで綴ったつもりだった。
「子供なんていません」
返事は、思いのほか早く郵便受けに届いた。
封を開けて、私は息をのんだ。一人暮らしだという断り書きのあとに、こう続いていた。
「子供なんていません!何かの間違いでは?」
「は?子供いないって、どういうこと」
「じゃあ、毎朝のあの足音は誰なのよ」
真上に入れたはずの手紙への返事が、子どもなどいないと言う。
あの毎朝のドタドタは、確かに頭の真上で鳴っていた。私は短い一文を何度も読み返した。間違った相手に苦情を突きつけてしまったことになる。
申し訳なさと、あの音は誰だという疑問が同時に押し寄せた。
犯人は斜め上だった
頭を冷やすと、思い当たることがあった。私の部屋は角部屋。上で音を出せるのは真上か斜め上しかない。
寝室の真上で鳴るものだから、当然のように真上だと決めつけていた。けれど古い木造では、斜め上の足音も真上のように伝わるのかもしれない。
「だったら、斜め上に入れ直すしかないか」
「今度こそ人違いじゃありませんように」
もう限界だった私は、同じ手紙をもう一通したため、今度は右斜め上へ入れに行った。返信はない。それでも、変化は数日後に訪れた。あれほど鳴り続けていた朝のドタドタが、ぴたりとやんだのだ。
「ねえ、今朝なんか静かじゃなかった?」
気になって階段を上がると、斜め上の部屋の前に小型トラックが横づけされていた。
作業員が衣装ケースを抱えて出てきて、開いた玄関の奥はもう空っぽだ。
音の出どころは、最初から真上ではなく斜め上だった。
その夜、遊びに来た友人にこの顛末を話した。
「真上に苦情入れて、犯人は斜め上だったの?ドジね」
笑い飛ばされて、ようやく私も肩の荷が下りた。あんなに張りつめていた毎朝が、嘘みたいに遠い。
翌朝、目覚まし時計が鳴るまで、私はぐっすり眠っていた。天井から降ってくる足音も、床を伝う振動もない。あの忌々しい揺れが二度と来ない朝に、布団の中で大きく伸びをした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














