「早く取っちゃおう」旅館の朝食バイキングで割り込むする客。だが、見かねた別の客の一言で状況が一変
湯上がりの朝食に
その夏、私は家族そろって、山あいの静かな温泉旅館で一泊しました。
旅の朝の楽しみは、なんといっても、地の物がずらりと並ぶ品数ゆたかな朝食バイキングでした。
朝、会場の入り口に着くと、すでに何組もの宿泊客が、行儀よく一列に並んで順番を待っていました。
私も家族の後ろについて列に加わり、席が空くのをのんびりと待ちます。
少しずつ進んでいく列のあちこちで、ときおり子どもたちのはしゃぐ声が明るく混じります。
誰もが急かすことなく、湯上がりの穏やかな顔で、自分の番をおとなしく待っていました。
ところが、ずいぶんあとから会場へやってきた一組の家族連れが、長い列にはまるで目もくれず、当たり前のような顔で平然と前のほうへ割り込んだのです。
重たくなる空気
後ろにいた男性が、控えめな声で「みんな並んでますよ」と伝えました。
それでも、その家族は聞こえないふりを決め込みます。
あろうことか、連れの一人が悪びれもせずに言いました。
「早く取っちゃおう」
そう言って、さっさと皿に料理を盛り始めます。
スタッフはその場では声をかけず、並んでいた人たちも、気まずそうに黙り込むばかりでした。
正直に順番を守っている側が、こうして割を食う。
列に並んでいた私は、なんともやりきれない気持ちになりました。
毅然と促した客
そんな時、少し離れて並んでいた別の女性客が、すっと歩み寄りました。
彼女は感情的に責め立てるのではなく、それでいてきっぱりと毅然とした声で、その家族に告げました。
「後ろに列ができています。最後尾はあちらですよ」
まっすぐな物言いに、割り込んだ家族はばつが悪そうにうつむきました。
皿を持ったまま、そろそろと列の最後尾へ戻っていきます。
張りつめていた行列の空気が、その一言でふっとやわらぎました。
周りの人たちの表情にも、ほっとした色が戻ってきます。
怒鳴りつけるでも、責め立てるでもなく、ただ道理を静かに示しただけ。あの毅然とした姿勢に、私はそっと救われた思いでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














