「あの人、悪い人じゃないんだけどね」パソコンのすぐ横まで顔を寄せた同僚。私が画面の角度を変えたきっかけ
画面のすぐ横に、顔があった
三年ほど前、仕事中のことです。
隣の席から何かを聞かれ、答えようと顔を上げた瞬間、私は思わず動きを止めました。パソコンの画面のすぐ横に、同僚の顔があったのです。
その方は、部署に配属されてきたばかりでした。初日からよく声をかけてくださり、私も普通に接していました。
「よろしくお願いします。分からないことがあったら聞いてくださいね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
人との距離が少し近い方なのかな。そのくらいに考えていました。
けれど、画面をのぞき込むような距離まで顔を寄せられると、さすがに戸惑います。私は反射的に少し体を引きました。
それに気づいたのか、その方は私を見て、やわらかい声で言いました。
「あ、ごめんなさい。仲良くしたいだけです。悪気は1つもないんです」
怒っているわけでもなく、責めるような言い方でもありません。だからこそ、私はどう返したらいいのか分からず、「ああ……はい」と曖昧に答えることしかできませんでした。
向かいの席の人が、ちらりとこちらを見ているのが分かりました。
話していないはずのことを知っていた
思い返せば、違和感はその前から少しずつありました。
配属されて二日目には、こんなことを聞かれています。
「ご家族は、どちらにお住まいなんですか?」
私は「まあ、近くです」とだけ答えました。住所も駅名も話していません。
ところが三日目、席に着いて間もなく、その方はにこやかに言いました。
「ご家族、4人なんですね。休みの日はいつも家にいるんですか?」
一瞬、返事ができませんでした。
家族が4人だとは話していません。休日の過ごし方についても、この職場で話した記憶はありませんでした。
誰かから聞いたのかもしれない。どこかで世間話の中に出たのかもしれない。そう考えることにして、その場では深く聞きませんでした。
けれど、その後も似たことが続きました。
私がよく行く店の話が出たり、休みの曜日を当てられたり、子どもの学年まで口にされたりしました。私が詳しく答えなくても、その方は自然に話を続けます。
「あの人、悪い人じゃないんだけどね」
あるとき、別の同僚がそう言いました。
私も、その方に怒鳴られたり、無理に何かをさせられたりしたわけではありません。それでも、少しずつ落ち着かなくなっていました。
画面の角度だけは、今も戻していない
私はパソコンの画面を、それまでより少し見えにくい角度に変えるようになりました。席にいる時間も、できる範囲で少し減らしました。
ただ、誰かに相談することはありませんでした。
はっきり何かをされたと言えるのか、自分でも分からなかったからです。それでも、知らないはずのことを次々と言われるたびに、胸の奥に小さな引っかかりが残りました。
今は、その方とは席が離れています。職場ですれ違えば、今でも普通に会釈をします。
けれど、パソコンのすぐ横まで近づいてきた、あのときの目は今もよく覚えています。
あの方が、私の家族のことや休日のことをどこから知ったのか。それは結局、今も分かりません。
そして、一度変えた画面の角度も、そのままです。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














