「そこまでして座り続けるの?」杖の女性を前にパソコンを閉じない乗客。だが、車内の空気を変えた男性の振る舞い
キーの音が響くドア横の優先席
四十代の私は、地方の電車で通勤しています。
本数は少ないものの、朝でも都心の電車ほど混みません。
その日も立っている人は多くありませんでしたが、ドアに近い座席は埋まっていて、少し離れたところに空席が残っている程度でした。
私は次の駅で降りるつもりだったので、ドアの脇に立っていました。
近くの優先席では、若い女性があぐらをかき、膝の上のノートパソコンを操作していました。
次の駅でドアが開くと、杖をついた年配の女性がゆっくり乗ってきました。
女性は近くの席を探すように車内を見回し、若い女性の前まで来ると、手すりにつかまりました。
私は少し迷ったあと、パソコンを操作している女性に声をかけました。
「あの、すみません。こちら優先席なんですけど、席をお願いできますか」
しかし返事はありません。聞こえなかったのかと思い、もう一度声をかけました。
「すみません。譲っていただけませんか」
それでも女性は画面を見たままでした。
何も言わずに立ち上がった男性
電車が動き出すと、杖をついた女性の体が小さく揺れました。私は思わず手を伸ばしかけます。
すると、ようやくパソコンの女性が口を開きました。
「すみません、今、仕事してるので…」
そう言って、また画面に目を戻しました。
(そこまでして座り続けるの?)
私が何と返そうか迷っていると、近くに座っていたスーツの男性が、鞄を持ってすっと立ち上がりました。
そして年配の女性に、自分が空けた席を手で示します。
「よかったら、こちらへどうぞ」
「あら…すみません。助かります」
年配の女性が腰を下ろすと、男性は私の隣に立ってつり革をつかみました。女性を責める言葉は、一言もありませんでした。
しばらくすると、それまで響いていたキーの音が止まりました。若い女性はパソコンを閉じ、あぐらを解いて、足を床に下ろしました。
そして次の駅に着くと、パソコンを抱えて立ち上がり、そのまま隣の車両へ移っていきました。
年配の女性は、私たちを見上げて笑いました。
「ありがとうね、お二人とも」
男性は少し照れたように笑います。
「いえ、僕も次で降りますから」
注意の言葉を重ねるよりも、黙って席を立った男性の行動のほうが、その場ではずっと伝わるものがあったように感じました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














