毎日2時間「ドン、ドン」と響く隣家のボール音。我慢していた私が母親に伝えると、翌日男の子がやって来た
ドン、ドンと響く夕方
家がぎっしり並ぶ都会の一角に、私は小さな一戸建てを持っています。
隣の家の外壁までは1メートルもありません。30代で家を買ったときは、この距離の近さに悩むことになるとは思っていませんでした。
気になっていたのは、隣の男の子が蹴るボールの音です。
小学校の高学年くらいの子で、学校から帰ると家の脇の通路でドリブルを始め、そのまま壁に向かってボールを蹴ります。
ドン、ドンという音は、だいたい毎日2時間ほど続きました。自宅でパソコンに向かって仕事をしている私には、そのたびに音と振動が気になってしまいます。
週末には、隣の家族が七輪で肉を焼くこともありました。
窓を閉めていても煙のにおいが入ってくるため、洗濯物を取り込む時間をずらすこともありました。
それでも、なかなか言い出せませんでした。家同士が近いだけに、これからも顔を合わせます。子どものことで関係がこじれたらと思うと、我慢したほうがいいのかもしれないと考えていたのです。
ある日も夕方からボールの音が続き、締め切り前の仕事になかなか集中できませんでした。
窓の外を見ると、ちょうど隣のお母さんがゴミを出しに外へ出てきたところでした。私は迷った末、思い切って声をかけました。
「すみません、ちょっといいですか」
「はい。どうしました?」
40代くらいのお母さんが、少し驚いた顔で振り返りました。
「実は、息子さんのボールの音がうちまでかなり響いていて…。2時間くらい続く日もあるので、仕事中はちょっと困っているんです」
お母さんは一瞬黙り、家と家の間の細い通路へ目を向けました。
「そうだったんですね。すみません。そこまで響いているとは思っていませんでした」
「いえ、私もなかなか言えなくて……」
「教えてもらえてよかったです。本人とも話しますね」
翌日、ボールを抱えて来た男の子
その日は、それからボールの音が聞こえることはありませんでした。夜になると隣から親子の話し声も聞こえてきましたが、何を話しているのかまでは分かりませんでした。
翌日の夕方、玄関の前にその男の子が立っていました。胸には、いつものボールを抱えています。
「昨日はごめんなさい。これからは公園でやります」
少しうつむきながらそう言う男の子に、私は尋ねました。
「公園でやることにしたの?」
「はい。公園のほうが思いきり蹴れるから」
その言葉を聞き、私は「ありがとう」と返しました。
それから男の子は、ボールを抱えて近くの公園へ行くようになりました。週末に七輪を使うときも、隣の家族は風向きを見ながら家の反対側へ置くようになりました。
夕方、公園から戻ってくる男の子を見かけることがあります。ボールを小脇に抱え、額には汗が光っています。
「おかえり」
声をかけると、男の子は少し照れたように片手を上げ、そのまま隣の玄関へ入っていきました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














