「下げるんじゃない、消すんだ。夜10時すぎだぞ」テレビを消しても壁を叩く隣人。だが、管理会社の担当者の前で黙った
夜10時すぎ、隣の部屋から響いた音
隣の部屋には、50代くらいの男性が住んでいました。
廊下ですれ違えば会釈する程度の関係です。夜は早くに明かりが消え、明け方には出かけていく人でした。
ある夜10時すぎ、私は部屋でテレビを見ていました。音量は小さくしていたつもりです。
すると突然、隣の壁から「ドン、ドン!」と大きな音が響いてきました。
驚いてテレビの音量を下げた直後、今度は玄関のドアを強く叩く音がしました。
恐る恐るドアを少し開けると、隣の男性が険しい顔で立っています。
「テレビ、うるさいんだよ。静かにしてくれないか」
「すみません。今、音を下げます」
「下げるんじゃない、消すんだ。夜10時すぎだぞ」
男性の声は廊下に響くほど大きくなっていました。
「こっちは明日も早いんだよ。壁も薄いんだから、夜くらい静かにしてくれ」
それ以上言い返すこともできず、私は何度も謝ってテレビを消しました。
翌日からは、夜になるとテレビの音を消し、字幕だけで見るようになりました。
ところが、それでも壁を叩かれることがあったのです。
ただ台所で洗い物をしているだけなのに、突然「ドン!」と響いてきます。
何の音が気に障ったのかも分かりません。自分の部屋なのに、夜になると物音を立てるのが怖くなっていました。
休日に友人と会ったときのことです。
「そういえば最近、夜に電話くれないね。どうしたの?」
「実はさ、隣の人が音にすごく厳しくて…。電話の声まで聞こえたらと思うと怖いんだよね」
事情を話しているうちに、このまま我慢し続けるのはつらいと感じました。
その晩から、壁を叩かれた日付と時刻、そのとき自分が何をしていたのかをノートに書き始めました。
記録がたまったところで、管理会社に相談することにしたのです。
管理会社の担当者が聞いた壁の音
約束した夜、40代くらいの女性の担当者が私の部屋を訪ねてきました。
担当者はノートを受け取り、記録を一つずつ確認していきます。
「テレビを消していても、壁を叩かれるんですね」
「はい。洗い物をしているときもあって……。もう何をしたら怒られるのか分からないんです」
「そうでしたか。普段どのくらいの音を出しているのか、一度確認させてもらえますか」
私はいつもの小さな音量でテレビをつけました。
担当者は壁際で音を聞いたあと、廊下へ出て、ドアの外からも確かめていました。
そして部屋に戻ってきたときです。
「ドン!」
突然、隣の壁が叩かれました。
私は思わず肩をすくめましたが、担当者もその音を聞いていました。
「今のです。いつも、あんなふうに叩かれるんです」
「分かりました。私からお隣にお話ししますね。一緒に来ていただけますか」
担当者と廊下に出て、隣の部屋のドアをノックしました。
私は少し後ろに立っていました。
ドアを開けた男性は、担当者の姿を見ると不思議そうな顔をしました。
「何ですか?」
「管理会社の者です。お隣の方から、壁を叩かれるというご相談がありまして」
男性は私をちらりと見ました。
「だって、テレビがうるさいんだよ。こっちは朝が早いんだから」
「そうでしたか。ただ、先ほどお隣のお部屋で音を確認しましたが、私が聞いた限りでは、特別大きな音ではありませんでした」
担当者は落ち着いた声で続けました。
「音が気になることはあると思います。でも、壁を叩いたり、直接大声で注意したりするのはやめてください。契約でも禁止している行為です」
「いや、だから、朝が早いって言ってるだろ」
「はい。それは分かりました。ただ、この建物には夜10時を過ぎたらテレビを消さなければならないという決まりはありません。今後、音でお困りのときは管理会社にご連絡ください」
男性は何か言いかけましたが、口を閉じました。
しばらく担当者の顔を見ていましたが、やがて視線を落とし、小さな声で答えました。
「……分かったよ」
それだけ言うと、男性は静かにドアを閉めました。
担当者は私にノートを返し、うなずいてくれました。
あの夜を境に、壁を叩かれることはなくなりました。
今では、夜も普通の音量でテレビを見られています。
週末には、久しぶりに友人へ電話をかけました。何気ない話をして笑えることが、こんなにうれしいとは思いませんでした。
あのとき、怖くても記録を残し、管理会社に相談してよかったと感じています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














