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2026.10.03(Sat)

「何も持っていませんけど」旅館の出口でしらを切った母親。だが、子供の一言で状況が一変

「何も持っていませんけど」旅館の出口でしらを切った母親。だが、子供の一言で状況が一変

トングを差し出された朝

数年前の夏、家族で旅館に泊まったときのことです。

朝食のバイキングで、となりの席には40代くらいの母親と父親、小学生くらいの男の子と女の子がいました。

母親は何度も料理台へ行き、ロールパンやオレンジをたくさん運んできます。食事が進んでも、テーブルの端には手つかずのパンがいくつも残っていました。

しばらくすると、女の子が一人でパンを取りに行きました。ところが、トングを使わず、並んでいるパンを指先で触りながら選んでいます。

それに気づいた旅館の係の女性が近づき、女の子にトングを差し出しました。

「こちらを使ってくださいね」

すると母親が、すぐに口を挟みました。

「子どもだから仕方ないですよ」

係の女性は言い返さず、女の子が触れたパンを静かに取り下げました。

バッグに入っていくパン

食事の終わりごろ、父親が先に席を立ちました。

すると母親は、テーブルに残っていたパンを集め、大きなバッグへ入れはじめたのです。

となりにいた男の子が、不思議そうに聞きました。

「それ、持って帰っていいの?」

母親は手を止めません。

「パンを残すなんてもったいない、持って帰るわよ」

「でも、ここのパンって…」

「料金に入ってるの。払った分は、うちのものなんだから」

そう言って、今度はバナナまでバッグに入れました。

私が思わず見ていると、母親はこちらに気づいたようです。

「見てたって、あげないわよ」

突然そう言われ、私は返す言葉がありませんでした。隣にいた夫にひじを引かれ、そのまま視線を落としました。

出口で息子が口にしたこと

食事を終えて会場を出ようとすると、少し前をあの母親と子どもたちが歩いていました。母親の肩には、パンやバナナを入れたバッグがあります。

出口には、先ほどの係の女性が立っていました。

「お客様。お料理のお持ち帰りは、ご遠慮いただいております」

母親は目をそらしたまま答えました。

「何のことかしら。何も持っていませんけど」

そのとき、男の子が母親を見上げました。

「ママ、さっきバッグに入れたパンのことだよ」

よく通る声に、母親は言葉を失いました。

少しの沈黙のあと、母親はバッグを開け、パンとバナナを取り出します。そして、係の女性が持っていたかごへ一つずつ戻しました。

「ありがとうございます」

係の女性はそれだけ言って、静かに頭を下げました。

母親は子どもたちと一緒に、そのまま早足で廊下へ向かっていきました。

母親を言い負かそうとしたわけではない男の子の素直な一言が、妙に印象に残った朝でした。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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