「お父さん、両手を広げるのやめて」海外の空港で係員の身ぶりを勘違いした私。娘に指さされた場所にあったのは
「身ぶり手ぶりで何とかなる」と言い切った私
妻と、大人になった娘と息子と、家族そろって海外旅行をしたときのことです。
私は英語がまるで話せません。
機内では、旅慣れた家族が入国審査で困らないようにと、簡単な受け答えを教えてくれました。
「旅行の目的を聞かれたら、この単語だけ言えば大丈夫だからね」
娘がメモまで書いてくれましたが、私は笑って押し返しました。
「大丈夫、大丈夫。言葉なんて、身ぶり手ぶりで何とかなるって」
仕事でも何でも、最後は気持ちと勢いで乗り切ってきたつもりだったのです。
昼すぎに空港へ着くと、私は人の流れを見ながら先頭を歩きました。
案内の矢印をたどれば迷うこともないと思っていました。
「ちょっと、お父さん。ひとりで先に行かないでよ」
「大丈夫だって。こっちで合ってるだろ」
そのまま入国審査へ向かう通路を進んでいきました。
係員の前で何度も両手を広げた結果
すると、制服姿の背の高い女性係員が私の前に立ち、こちらを止めるように両腕を横へ広げました。
私は一瞬、「何か検査をするから、この姿勢を取れということか」と思いました。
そこで、係員と同じように両手を真横へ広げました。
ところが、係員はその場から動きません。
「あれ?」
私も腕を広げたまま待ちました。それでも何も始まらないので、一度腕を下ろしてから、今度はもっと分かりやすいように大きく広げ直しました。
それでも係員はじっとこちらを見ています。
ふと後ろを振り返ると、妻と娘と息子が口元を押さえていました。三人とも肩を震わせています。
「お父さん、もう両手を広げるのやめて」
娘が笑いをこらえながら言います。
「なんでだ。こうしろってことじゃないのか?」
「違うって。足元見て」
言われて下を見ると、私のつま先のすぐ前に床の線がありました。
係員は、ただその線より先へ進まないよう、私を止めていただけだったのです。
意味が分かった瞬間、私は両手を広げたまま固まりました。
係員も事情を察したのか、とうとう笑いながら私に親指を立てました。
すると息子が、すかさず言いました。
「ほら、お父さん。身ぶり手ぶり、ちゃんと伝わったじゃん」
そのひと言で、妻も娘も吹き出しました。
私も恥ずかしくなりながら、結局一緒に笑ってしまいました。
あの旅行で家族が今でも気に入っている写真は、有名な観光地で撮ったものではありません。
審査を終えて到着ロビーへ出たあと、娘に「さっきのもう一回やって」と言われ、両手を真横に広げて撮った一枚です。
「言葉なんていらない」と言っていた私ですが、あの日ばかりは、身ぶりにも受け取り方があるのだと思い知らされました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














