「三脚のご使用はご遠慮ください」運動会で観覧席の前をふさいだ父親。だが、放送後に係の先生がかけた言葉
かけっこの最中に立ちふさがった背中
子どもの小学校で運動会があった、よく晴れた日のことです。
私は観覧席の前のほうに座り、わが子のかけっこが始まるのを楽しみに待っていました。
最初の組が走り始めたころ、私よりずっと年上に見える父親がやってきました。
そして、私の席のすぐ前で、大きな三脚を広げ始めたのです。
三脚にカメラを取り付けると、父親はその横に立ち、レンズをグラウンドへ向けました。
その背中と三脚に視界を遮られ、座っている保護者たちからは、走る子どもたちの姿がほとんど見えなくなってしまいました。
「あの、ちょっと前が…」
後ろの席のおばあさんが困ったように声をかけましたが、父親は振り返りません。
私も、さすがにこのままでは困ると思い、声をかけました。
「すみません。後ろから見えなくなってるんですけど……」
すると父親は、肩越しにこちらを振り返りました。
「今からうちの子が走るんだよ。少しくらいいいでしょ」
「いや、でも、みんな見たいので……」
私がそう言いかけると、父親はもうカメラに向き直っていました。
自分の子どもがゴールするまで、その場でシャッターを切り続けたのです。
わが子の姿を残したい気持ちは分かります。でも、ほかの保護者も同じように子どもの頑張る姿を見に来ているはずです。
目の前に立つ父親の背中を見ながら、私は何とも言えない気持ちになりました。
放送のあと、係の先生がかけた言葉
ところが、自分の子どもが走り終わっても、父親は三脚を動かそうとしませんでした。
次の組の子どもたちが並び始めても、カメラの位置を確認するばかりです。
「もう終わったんだから、少しずれてくれればいいのに…」
そんな声が近くから聞こえましたが、父親はそのままでした。
周りの保護者たちは、三脚や父親の体のすき間から、何とかグラウンドを見ようとしていました。
そのときです。
会場に、保護者へのお願いを伝える放送が流れました。
「三脚のご使用はご遠慮ください」
その声を聞いて、父親もカメラから顔を上げました。
周囲の何人かが三脚のほうを見ていることに気づいたのか、父親は少し落ち着かない様子であたりを見回しました。
すると、ジャージ姿の係の先生が近づいてきたのです。
先生は父親の前で立ち止まり、穏やかな口調で声をかけました。
「お父さん、すみません。今の放送のとおり、三脚はたたんでいただけますか」
父親は一瞬、言葉に詰まったようでした。
「あ、いや……もうすぐ終わるんで……」
「すみません。後ろの方が見えなくなってしまうので。撮影はあちらのエリアからお願いします」
先生は撮影エリアのほうを示しました。
父親は何か言いたそうな顔をしましたが、それ以上は言い返さず、三脚をたたみ始めました。
先ほどまで「少しくらいいいでしょ」と言っていた父親も、先生に直接注意されては、その場に居続けるわけにはいかなかったのでしょう。
三脚を抱えた父親が撮影エリアへ向かうと、目の前のグラウンドがようやく見えるようになりました。
後ろのおばあさんも、ほっとしたように笑いました。
「ああ、やっとよく見える」
ちょうどそのとき、スタートラインにはわが子が並んでいました。
私はようやく落ち着いて、わが子がゴールするまでの姿をしっかり目で追うことができました。
子どもの頑張る姿を撮影したい気持ちは、どの親も同じです。だからこそ、お互いに気持ちよく応援できるよう、周りへの配慮も忘れたくないと思った出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














