「わざとじゃないし」遊園地の待ち列で彼女のズボンを汚しても謝らない女性。だが、そこへやってきた係員の一言
謝るより先に出た言葉
恋人と遊園地に出かけた、よく晴れた休日の昼のことです。
人気の乗り物の待ち列はなかなか進まず、僕たちはおしゃべりをしながら順番を待っていました。
すぐ後ろには、僕たちと同じくらいの年の女性が2人並んでいました。
そのうちの1人は骨付きのチキンを持ち、連れの女性と話しながら食べています。
しばらくすると、隣にいた彼女が突然「わっ!」と声を上げました。
「どうしたの?」
僕が聞くと、彼女は困った顔でズボンの後ろを指さしました。
ひざの裏あたりに、べったりと油のしみがついています。
足元には、かじりかけのチキンが落ちていました。
「えっ、大丈夫?ちょっと待ってね」
僕は慌ててかばんからウェットティッシュを取り出し、しみが広がらないよう、そっと押さえながら拭きました。
ところが、後ろの女性は謝るどころか、地面に落ちたチキンを見つめて声を上げたのです。
「うそでしょ、まだ食べてたのに!」
「あーあ、落ちちゃったね」
連れの女性も、残念そうに答えるだけでした。
彼女のズボンが汚れているのは見えるはずなのに、2人ともチキンの話ばかり。
さすがに黙っていられず、僕は声をかけました。
「あの、彼女のズボンが汚れちゃってるんですけど…」
すると女性は、面倒くさそうに髪をかき上げました。
「わざとじゃないし。そっちが急に下がったんじゃない?」
「いや、でも…」
思わず言い返しかけた僕の腕を、彼女がそっと押さえました。
「もういいよ。せっかく遊びに来たんだし」
彼女はそう言って、僕に小さく首を振りました。
確かに、ここで言い争いになっても楽しい気分が台無しです。僕は納得できない気持ちを抑え、ズボンのしみを拭き続けました。
係員が差し出したもの
そのときです。
ちょうど待ち列の横を見回っていた若い男性の係員が、僕たちのところへやってきました。
そして、後ろの女性に向かって声をかけたのです。
「お客様、恐れ入ります。列の中でのご飲食はご遠慮いただいております」
落ち着いた、それでいてはっきりとした声でした。
女性は「は?」と言いかけましたが、手に握っていたチキンの包み紙を見ると、口を閉じました。
係員はそれ以上女性を責めることなく、今度は彼女のほうへ向き直りました。
そして、新しいウェットティッシュを差し出しながら尋ねたのです。
「お洋服、大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます。はい、なんとか……」
彼女が答えると、近くに並んでいた人たちもこちらを振り返りました。通路の向こう側の列からも、何人かが様子を見ています。
女性は包み紙を握ったまま、気まずそうに黙り込んでいました。
すると、隣にいた連れの女性が、その女性を肘で軽くつつきました。
女性はようやく彼女のほうを向き、顔を赤くしながら小さく頭を下げました。
「……すみませんでした」
係員は地面に落ちたチキンを手早く袋に入れると、列の先へ戻っていきました。
それから女性は、連れと話すこともなく、うつむいたまま立っていました。
「もう、大丈夫だよ」
彼女が僕に笑いかけてくれました。
「……うん。嫌な思いさせちゃったね」
そう返すと、彼女は小さく笑いました。
係員が女性を大声で叱ったわけではありません。ただ、必要な注意をして、汚れた彼女のことも気遣ってくれた。その対応が、僕にはありがたく感じられました。
やがて列が動き出し、僕たちは並んで前へ進みました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














