「このキッチンが新しくなったら、お料理ももっと楽しくなるね」
「ああ。子供が走り回れるように、リビングも広くしよう」
夫の健司と、古い我が家の未来を語り合う。それが、私たちの何よりの幸せでした。その夢を叶えるため、結婚してから5年間、共働きで必死に貯めてきたお金が、ようやく目標の500万円に達しました。
二人で何度も銀行に足を運び、少しずつ積み立ててきた、汗と夢の結晶。リフォーム会社との打ち合わせも始まり、いよいよ夢が現実になる――そう信じていた矢先のことでした。
突如、残高ゼロ。夫の裏切りと義母の嘘
契約金を支払うため、いつものようにネットバンキングで、夫婦共有のリフォーム用口座にログインした私は、自分の目を疑いました。あるはずの500万円が、綺麗さっぱり消え、残高はわずか数千円になっていたのです。
パニック状態で健司に電話をかけると、返ってきたのは歯切れの悪い、信じがたい言葉でした。
「ごめん…母さんが、どうしてもって言うから…」
話を聞くと、数日前、義母が健司に「絶対に儲かる投資話がある」「親戚の借金の保証人になってしまって、今すぐお金が必要なの」などと泣きつき、彼を言いくるめて、口座から全額を引き出させていたと言うのです。
「家族を助けるのは当然だろ!すぐに返すって言ってるんだから!」
そう言って自分を正当化する夫。私は、怒りを通り越して、目の前が真っ暗になりました。私たちの夢を、夫が、義母と一緒になって踏みにじった。その事実が、重く私にのしかかりました。
「嫁いだのだから家の財産」義母の開き直り
すぐに義母に電話をかけ、お金を返してほしいと懇願する私に、彼女は鼻で笑いながらこう言い放ちました。
「あら、あのお金は健司が『使いなさい』ってくれたものよ?あなたに文句を言われる筋合いはないわ。そもそも、嫁いだのだから、家の財産はみんな家のものなのよ」
返す気など、まったくない。そして、頼みの綱の夫は「母さんもああ言ってるし…」と、私の前でオロオロするばかり。
ああ、そうか。この家で、私は一人なんだ。泣いても、怒鳴っても、この人たちには何も通じない。絶望のどん底で、私の心に一つの静かな炎が灯りました。
──ならば、法の下で戦うまで。
法律を武器に。私の「合法的」な逆襲計画
私はその日から、法律事務所の無料相談や、行政書士の先生の元へ通い詰め、自分の権利と、彼らの行為の違法性について徹底的に学びました。そして、最強の武器を手に入れたのです。
まず、あの口座は私たち夫婦の「共有財産」であること。そして、その使途が「リフォーム資金」であることは、義母も知っていたはず。それを、虚偽の理由で(絶対に儲かる投資話など、ほぼ嘘でしょう)引き出させた義母の行為は、法的に「不当利得」にあたる可能性が非常に高い。
私は、弁護士に依頼する前に、私自身の名前で、最後通牒を叩きつけることにしました。これは、私が主体となって戦う、私のための復讐劇なのです。
義母に突きつけた、一通の「請求書」
私が義母の元へ郵送したのは、一通の「内容証明郵便」でした。感情的な手紙ではありません。事実だけを淡々と記した、法的な「返還請求書」です。
内容は、以下の通り。
- 某年某月某日、夫婦共有名義口座より、金500万円が引き出され、貴殿に渡った事実。
- 上記金員は、夫婦共有の財産であり、その使途が住宅のリフォーム資金であったこと。
- 上記金員の保持は法的な原因を欠く「不当利得」にあたるため、本書面到着後14日以内に、速やかに下記口座へ返還されたい。
- 万が一、期限内に返還が確認できない場合、不本意ながら、弁護士と相談の上、不当利得返還請求訴訟等の法的措置に移行せざるを得ないことを、ここに通告いたします。
慌てふためく義母、そして訪れた結末
手紙が届いた日の夜、義母から健司のスマホに、凄まじい剣幕で電話がかかってきました。「あの嫁はなんだ!」「家族を訴える気か!」と。
しかし、健司も「内容証明郵便」という物々しい書面を見て、ようやく事の重大さを理解したのでしょう。彼は初めて、母親に対して「母さんがお金を返さないからだろ!」と強く言い返していました。
法律の知識などない義母にとって、「訴訟」「弁護士」という言葉は、何よりも効果的な脅しでした。自分が法廷に引きずり出され、嘘が暴かれる恐怖。彼女は、ついに観念しました。
期限の2日前。私たちの共有口座に、きっかり500万円が振り込まれているのを、私は静かに確認しました。
義母との関係は、完全に終わりました。夫との間にも、決して消えない溝ができたかもしれません。けれど、預金ゼロの絶望から、私はたった一人で、法律だけを味方につけて、私たちの未来を取り返したのです。この家に嫁いだただの”嫁”ではなく、自分の権利を主張し、戦う一人の人間として。