X(旧Twitter)でリアルタイムの情報を追い、Instagramで「映える」瞬間をシェアし、TikTokで短い動画に心を奪われる。それが令和のコミュニケーション。
しかし、今から15年ほど前。 私たちの青春には、今とは全く違う、独特な熱気と“手触り感”のあるSNSが存在した。
SNS「mixi(ミクシィ)」。 自分だけの紹介ページを作る「前略プロフィール」。
この言葉に胸がざわついたあなたは、間違いなく平成のネットを駆け抜けた仲間だ。あの頃、私たちは何に夢中になり、何に一喜一憂していたのだろうか。少しだけ、あのほろ苦くて愛おしい時代にタイムスリップしてみよう。
日本のSNSキングダム「mixi」と、魔法の言葉「足あと」
2000年代後半、日本のSNSの頂点に君臨していたのがmixiだ。
mixiを語る上で絶対に外せないのが、「足あと」機能だろう。自分のページに誰が訪れたかが分かる、このシンプルな機能に、どれだけ多くの学生が心を揺さぶられたことか。
好きな人の「足あと」がつけば、一日中機嫌が良かった。逆に、自分の「足あと」を付けたくて何度も見に行くのを「キモがられるかも…」と必死に我慢した夜。気になる相手のページに自分の知らない友人の「足あと」を見つけて、勝手に落ち込んだり。そこには、既読スルーとはまた違う、甘酸っぱい駆け引きがあった。
友人に自分のことを紹介してもらう「紹介文」も独特の文化だった。「#(シャープ)」で始まる紹介文は、少し照れくさいけど、書いてもらうと嬉しかったものだ。
そして、今の長文投稿の原型ともいえる「mixi日記」。日常の出来事から、ちょっとポエムのような心の叫びまで。コメント欄でのやり取りは、今のSNSよりずっと閉鎖的で、だからこそ温かかった。誰からともなく回ってくる「バトン」に、律儀に答えていたのも良い思い出だ。
“最強”の自分を創り出す「前略プロフィール」
mixiと同時期に、多くの学生が夢中になったのが「前略プロフィール(前略プロフ)」だ。これは、決められた質問に答えていくだけで、自分だけの自己紹介ページが作れるサービス。
しかし、その本質は「いかに自分だけのページを“盛る”か」にあった。
お気に入りのプリクラを貼り、好きなアーティストの歌詞を引用し、背景画像や文字色をキラキラの動くHTMLタグで装飾する。ソースコードと格闘し、自分だけの”城”を築き上げた達成感は格別だった。
「リアル」と呼ばれるひとこと更新で今の気持ちを伝え、「BBS(掲示板)」で仲間と雑談する。そのやり取りは、まさにXやLINEのタイムラインの原型だったと言えるだろう。
なぜ、あの頃のSNSは特別だったのか?
今振り返ると、mixiや前略プロフは、決して洗練されたサービスではなかったかもしれない。
しかし、そこには「閉じたコミュニティ」ならではの安心感があった。不特定多数の「世間」を意識することなく、仲間内だけで通じる言葉で笑い合えた、あの居心地の良さ。
そして、プロフィールを埋め、紹介文を考え、日記を書くという「手間」。その一つ一つの手間が、コミュニケーションに奥行きと温かみを与えていたのではないだろうか。
スマートフォンが普及する前夜、PCやガラケーでポチポチと更新していた、デジタルとアナログの狭間の時代。インターネットがまだ、生活の全てではなかったあの頃のSNSは、私たちの「青春そのもの」だった。
この記事を読んで、自分のアカウントの黒歴史を思い出したあなた。もしパスワードを覚えているなら、久しぶりにログインしてみてはどうだろうか。そこには、忘れていた大切な思い出が、今も静かに眠っているかもしれない。