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2025.10.22(Wed)

「自治会の集まり、参加しない人は困ります」そう言われた夜、玄関に置かれた紙袋の中身とは【短編小説】

「自治会の集まり、参加しない人は困ります」そう言われた夜、玄関に置かれた紙袋の中身とは【短編小説】

厳しそうな自治会長

「自治会の集まり、参加しない人は困ります」

そう言われたのは、平日の夜、仕事帰りにゴミ出しをしていた時のことでした。

私の名前は里美(さとみ)です。
この街に引っ越してきて、まだ半年。IT系の会社で働いており、平日は残業で帰りが遅くなることもしばしば。

週末はたまった家事と、なにより休息で手一杯。
自治会の集まりは、いつも土曜日の午前中です。
正直なところ、私はまだ一度も参加できていませんでした。

声をかけてきたのは、自治会長の神田(かんだ)さん。
いつもきっちりとした服装の、少し厳しそうな印象の女性です。

「すみません、なかなか仕事が忙しくて…」 そう言い訳のように口にする私に、神田さんは「そうですか」とだけ短く返し、会釈して去っていきました。

(ああ、やっぱり怒らせてしまったかも…) ご近所付き合いは苦手ですが、ルールを破るのは本意ではありません。
重たい気持ちを引きずったまま、その日も私は夜遅くまで残業しました。

クタクタになってアパートの玄関のドアを開けようとして、ふと足元にあるそれに気づきました。
ドアノブではなく、足元にぽつんと置かれた、何の変哲もない茶色い紙袋。

(え、なに…?)

置いてあったのは…

昼間の神田さんの言葉がよみがえります。
「困ります」 …もしかして、苦情の手紙や、何か嫌がらせのようなものだったらどうしよう。
急に胸がドキドキしながらも、私はその紙袋を拾い上げ、部屋に持ち込みました。

恐る恐る中を覗き込むと、そこには。

まず目に入ったのは、数枚ホチキスで留められた資料でした。
それは、この半年ぶんの「自治会だより」と、会議の報告書。
私が参加できなかった回の議事録や、地域のゴミ出しルールの詳細、防災訓練のお知らせなどがまとまっていました。

そして、その資料の下に入っていたのは。

数種類のインスタントスープと、個包装になった少し良い紅茶のティーバッグ。

「え…?」

袋の底に、小さなメモ用紙が一緒に落ちていました。
『お仕事、お疲れ様です。無理しないでください。資料、目を通しておいてください。 神田』

神田さんの、少し角張った、でも丁寧な字でした。

あの「困ります」という言葉は、ルールを守らない私への非難だけではなく、地域から孤立してしまう私を「心配している」という意味だったのかもしれない。
そう思うと、なんだか胸が温かくなるのを感じました。

次の集まりは、土曜日。 少しだけ早起きして、神田さんにお礼を言おう。そう心に決めました。

 

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
※本コンテンツのテキストの一部は、生成AIを利用して制作しています。

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