
厳しそうな自治会長
「自治会の集まり、参加しない人は困ります」
そう言われたのは、平日の夜、仕事帰りにゴミ出しをしていた時のことでした。
私の名前は里美(さとみ)です。
この街に引っ越してきて、まだ半年。IT系の会社で働いており、平日は残業で帰りが遅くなることもしばしば。
週末はたまった家事と、なにより休息で手一杯。
自治会の集まりは、いつも土曜日の午前中です。
正直なところ、私はまだ一度も参加できていませんでした。
声をかけてきたのは、自治会長の神田(かんだ)さん。
いつもきっちりとした服装の、少し厳しそうな印象の女性です。
「すみません、なかなか仕事が忙しくて…」 そう言い訳のように口にする私に、神田さんは「そうですか」とだけ短く返し、会釈して去っていきました。
(ああ、やっぱり怒らせてしまったかも…) ご近所付き合いは苦手ですが、ルールを破るのは本意ではありません。
重たい気持ちを引きずったまま、その日も私は夜遅くまで残業しました。
クタクタになってアパートの玄関のドアを開けようとして、ふと足元にあるそれに気づきました。
ドアノブではなく、足元にぽつんと置かれた、何の変哲もない茶色い紙袋。
(え、なに…?)
置いてあったのは…
昼間の神田さんの言葉がよみがえります。
「困ります」 …もしかして、苦情の手紙や、何か嫌がらせのようなものだったらどうしよう。
急に胸がドキドキしながらも、私はその紙袋を拾い上げ、部屋に持ち込みました。
恐る恐る中を覗き込むと、そこには。
まず目に入ったのは、数枚ホチキスで留められた資料でした。
それは、この半年ぶんの「自治会だより」と、会議の報告書。
私が参加できなかった回の議事録や、地域のゴミ出しルールの詳細、防災訓練のお知らせなどがまとまっていました。
そして、その資料の下に入っていたのは。
数種類のインスタントスープと、個包装になった少し良い紅茶のティーバッグ。
「え…?」
袋の底に、小さなメモ用紙が一緒に落ちていました。
『お仕事、お疲れ様です。無理しないでください。資料、目を通しておいてください。 神田』
神田さんの、少し角張った、でも丁寧な字でした。
あの「困ります」という言葉は、ルールを守らない私への非難だけではなく、地域から孤立してしまう私を「心配している」という意味だったのかもしれない。
そう思うと、なんだか胸が温かくなるのを感じました。
次の集まりは、土曜日。 少しだけ早起きして、神田さんにお礼を言おう。そう心に決めました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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