「口出しするな、ブラウスも残り湯」表彰式の服まで風呂の残り湯ですすがせる母。私の白いブラウスを見て折れた
表彰式のための白いブラウス
表彰式のブラウスも残り湯ですすぐ、と母は言いました
日曜の朝、ベランダに出ると、母が物干しにタオルを干していました。よく晴れた10月の空です。
母と2人で暮らす団地の部屋。洗濯は昔から母の仕事で、洗いもすすぎも、お風呂の残り湯を使います。
私は、昨日買ったばかりの白いブラウスを、ハンガーごと胸の前に持っていました。
来週、会社で勤続20年の表彰式があり、そこで着る服です。
新品の折りじわが気になったため、着る前に一度洗って、アイロンで整えようと思っていました。せっかくの表彰式です。できるだけ真っ白な状態で、初めて袖を通したかったのです。
これだけは自分で、水道の水ですすぎたい。そう頼むと、母はタオルを干す手を止めました。
「口出しするな、ブラウスも残り湯。」
「水道ですすぐのは、ぜいたく者よ。」
母は、自分の割烹着は10年すすいでも白いと言いました
母は、物干しの端に干してある自分の割烹着の方へ、顔を向けました。
「あの割烹着も、10年残り湯よ。」
「今も、買った日と同じ白よ。」
母は長年、少しでも水を節約しようと家を切り盛りしてきました。そのやり方に娘が口を出すのを、何より嫌います。
ただ、私は以前から、母がその割烹着をほかの白い洗濯物と離して干していることが気になっていました。
出ていきなさいと言われ、私は言い返せずに下を向きました
私が口を開く前に、母はぴしゃりと続けました。
「嫌なら、この家を出ていきなさい。」
ここは母の名義で借りている部屋です。母は一度言い出したら、簡単には引きません。
表彰式を前に、家の中で言い争いをしたくもありませんでした。私はハンガーを握りしめ、返事ができずに下を向きました。
この家の洗濯は母が決める
表彰式の服なので、渡す前に確かめたいと母に伝えました
母はタオルを干し終えると、私の方へ手を差し出しました。
「さあ、ブラウスをよこしなさい。」
表彰式の服です。渡すなら、納得してからにしたい。それに、母が言うように、残り湯を使っても本当に白さが変わらないのか、確かめたいと思いました。
「渡す前に、確かめます。」
私はブラウスを持ったまま、物干しの端へ歩きました。
白いブラウスを重ねると、割烹着ははっきり灰色に見えました
物干しの端には、昨日洗った母の割烹着が、水色のハンガーにかけて干してあります。布はもう、すっかり乾いていました。
その胸元に、私はまだ一度も洗っていないブラウスを重ねて当てました。
真っ白なブラウスの横で、割烹着ははっきりと灰色でした。一枚だけで干してあれば、白に見えていた色です。
もちろん、10年間着続けた服ですから、色が変わること自体は不思議ではありません。
それでも、母が言い張っていた「買った日と同じ白」とは明らかに違いました。
「この白と重ねると、割烹着は灰色です。」
後ろから来た母が、ブラウスと割烹着を見比べたまま動きません。
母は言い返しかけたまま、口をつぐみました
「新品と比べるからよ!」
「買った日と同じ白、母さんの言葉です。」
母は唇を結び、その先を言いませんでした。しばらく割烹着を見つめたあと、自分のカーディガンの前を握り、目を落としました。
そして、真っ白だったのは最初の年だけだと、小さな声で認めました。白い物と並べて干さずにきたのも、色の違いを見たくなかったからだそうです。
母は節水のために続けてきた洗濯方法を、今さら否定されたくなかったのでしょう。けれど、目の前のブラウスを見て、私が新しい服の白さを守りたいと思う気持ちも、少しは伝わったようでした。
私はブラウスを胸に抱え、私の物は私が水道ですすぐ、と伝えました。
母はすぐには返事をしませんでしたが、もう、ぜいたく者とは言いませんでした。好きにしなさい。そう言ったきり、小さくうなずきました。
長年の習慣がすぐに変わるとは思いません。それでも、自分の大切な服の洗い方を自分で決められるようになったことに、私はほっとしました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














