高給取りの夫
「お前さ、その程度の給料で偉そうにすんなよ」
ソファに寝転がり、スマホの画面を眺めながら夫が吐き捨てた言葉です。
私は時短勤務とはいえ、事務の正社員として働いています。
それでも、営業職で高給取りの夫に比べれば、私のお給料は「その程度」なのでしょう。
夫は、私と私の仕事を見下していました。
家事も育児も「稼いでいないお前がやるのが当然」という態度です。
私が仕事の疲れを口にしようものなら、
「俺の方がもっと大変だ」
「誰のおかげで生活できてるんだ」
と、すぐに機嫌が悪くなります。
悔しくて唇を噛む日々でしたが、言い返せば何倍にもなって返ってくるため、私はいつも黙っているしかありませんでした。
そんな夫に、先月、会社から異動の内示が出ました。
「まあ、俺ほどのエースになると、会社も放っておかないよな」
彼は得意満面でした。
異動先は本社の人事部だとか。
現場の第一線から離れることに少し不満そうでしたが、
「エリートコースだ」
と自分に言い聞かせるように笑っていました。
異動した夫
異動が始まって数日。
あんなに自信満々だった夫が、明らかに疲れた顔で帰ってくるようになりました。
スーツはよれよれで、ため息ばかりついています。
「どうしたの? 新しい部署、大変?」
私が聞いても、
「……別に」
と歯切れが悪い返事しかありません。
そして、異動から二週間が経った金曜日の夜。
私が夕食の片付けをしていると、夫がおずおずとキッチンに入ってきました。
「あのさ、それ、俺がやろうか」
「え?」
驚いて夫を見ると、彼はバツが悪そうに目をそらしました。
「……いや、お前、毎日大変だなって思って」
一体どういう風の吹き回しかと問い詰めると、夫は観念したように話し始めました。
彼が配属されたのは、社員の給与計算や社会保険の手続きを担当するチームだったのです。
今まで「売上」という分かりやすい数字だけを追いかけてきた夫。
彼にとって、細かい数字を扱い、社員を裏で支える仕事は、まさに「その程度の仕事」でした。
しかし、実際にやってみると、1円のミスも許されないプレッシャーと、膨大な作業量、各所からの細かい問い合わせ対応に、彼は完全に音を上げていたのです。
「お前がやってる事務の仕事も、こういう地味な……いや、会社にとって大事な仕事なんだよな。俺、全然わかってなかった」
それ以来、夫は「その程度」という言葉を二度と口にしなくなりました。
今では「お疲れ様」と、私にお茶を入れてくれることさえあります。
給料の額だけで人の仕事を測っていた夫が、ようやく仕事の本質的な大切さに気づいてくれたようです。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
******************
心に響くストーリーをもっと読みたい方
【他のおすすめ短編小説を見る】
******************
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
※本コンテンツのテキストの一部は、生成AIを利用して制作しています。














