「うちの子はおとなしいから」ペット禁止の団地で続いた犬の散歩。だが、理事長が渡した書類と女性の決断
張り紙が出ても変わらなかった階段
私が住んでいた団地では、規約でペットの飼育が禁止されていました。
それでも同じ階段を使う50代くらいの女性は犬を飼っていて、散歩に出るたびに犬を連れて階段を上り下りしていました。
犬そのものはおとなしく、かわいい子でした。ただ、何度も通るうちに踊り場の隅には茶色い毛がたまり、においも気になるようになっていきました。
共用部には注意を促す張り紙が2度出ましたが、状況は変わりませんでした。
私も一度だけ女性に声をかけたことがあります。
「すみません。階段に毛が残っていることがあって…」
すると女性は、少し困ったような顔で答えました。
「うちの子、おとなしいから大丈夫だと思ってたんですけど」
それ以上は言いづらく、私はその場では引き下がりました。
ただ、同じ状態が続いたため、春ごろから気になった場所を日付が分かる形で写真に残すようになりました。
何か月かたった夕方、その写真の束を持って、管理組合の理事長を訪ねました。
「同じ階段の方のことで、少し相談がありまして」
理事長は写真を一枚ずつ確認しました。踊り場の隅にたまった毛や、汚れが写っています。
「ご本人には話しましたか」
「一度だけ。でも『うちの子はおとなしいから』と言われて、それ以上は言えなくて」
理事長は写真をそろえると、「分かりました。管理組合で話します」と答えました。
総会で確認された団地の決まり
その後、この件は年に一度の管理組合の総会で取り上げられました。当日の集会所には、例の女性も座っていました。
理事長は資料を手に、落ち着いた声で説明しました。
「改めて確認しますが、この団地では規約上、ペットの飼育は禁止されています。該当する方には、今後の対応を記した誓約書を今月中に提出していただきます」
名前は出ませんでした。それでも、女性は手元の資料を見たまま黙っていました。
総会のあと、理事長は女性の家を訪ねました。私も同じ階段の住人として少し後ろに立っていました。
「こちらが書類です。すぐにどうこうという話ではありませんが、規約がありますので、今後どうするかを書いて出してください」
女性は紙を受け取り、玄関の奥にいる犬へ目を向けました。
しばらくして、小さな声で言いました。
「……親戚に引き取ってもらおうと思います。庭のある家なので、そのほうがこの子にもいいかもしれません」
翌月になると、女性が犬を連れて階段を通る姿を見かけなくなりました。
ある週末には、女性がバケツと雑巾を持って、階段を一段ずつ拭いていました。私が通りかかると、女性は手を止めて頭を下げました。
「長いあいだ、すみませんでした」
「いえ。きれいにしてくださって、ありがとうございます」
それから階段に毛がたまることはなくなり、気になっていたにおいも少しずつ消えていきました。
女性とは今でも顔を合わせれば軽く会釈をします。大きな言い争いにならずに済んだことに、私はほっとしています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














