「来年度は仕事が忙しいので」と役員のくじを引かなかった母親。翌年も帰ろうとした彼女に、会長が説明した新しい決まり
くじを引かずに帰ってしまった母親
私の住む地区では、毎年年末に子ども会の役員を決めています。
役員は3人。まだ役員を経験していない家庭を対象に、公民館でくじ引きをするのが恒例でした。
去年の集まりには、30人ほどの保護者が参加していました。
ところが、くじ引きが始まる直前、40代くらいのお母さんが席を立ったのです。
「すみません。そろそろ帰らないといけなくて」
会長が慌てて声をかけました。
「あの、もうすぐくじ引きなんですが…」
「来年度は仕事も忙しいので、役員はちょっと無理なんです。すみません」
「そうですか…。でも、皆さんにも引いていただいているので」
「本当に時間がなくて。失礼します」
そう言って、お母さんは会場を出ていきました。
当時は途中で帰った人のくじをどう扱うか、明確な決まりがありませんでした。
結局、その場に残った保護者だけで抽選を行い、私が当たりを引いたのです。
もちろん、仕事や家庭の事情は人それぞれです。簡単に役員を引き受けられない人もいるでしょう。
ただ、ほかの保護者だって忙しい中で集まっています。
私も仕事の休みを調整しながら、春から役員の集まりに参加しました。
そんなとき、ふと去年のお母さんを思い出しては、少し複雑な気持ちになっていました。
翌年の役員決めで発表された新しいルール
そして今年の年末。
私は役員として、次の役員を決める集まりの準備をしていました。
会場には今年も30人ほどの保護者が集まっています。
ふと見ると、去年くじを引かずに帰ったお母さんも来ていました。
お母さんは隣の保護者に、小さな声で話していました。
「今日もあまり時間がなくて。途中で失礼するかもしれません」
その言葉に、私は去年の出来事を思い出しました。
やがて、会長が前に立ちました。
「くじ引きの前に、ひとつお知らせがあります」
会場が静かになります。
「去年、途中で帰られた方がいて、くじを引く家庭と引かない家庭が出てしまいました」
会長は手元の紙を確認しながら続けました。
「そこで今年からは、対象となるご家庭は、欠席や早退の場合も抽選に含めることにしました。ご本人が引けない場合は、役員が代わりに引きます」
さらに、役員を引き受けることが難しい事情がある場合は、事前に相談してほしいという説明もありました。
私は思わず、あのお母さんの方を見ました。
先ほどまで隣の人と話していたお母さんは、黙って会長の説明を聞いていました。
そして、小さく手を上げたのです。
「あの……途中で帰っても、くじは引くってことですか?」
「はい。対象の方は、皆さん同じ条件でお願いしています」
「……そうなんですね。分かりました」
お母さんは少し考えたあと、かばんを足元に置き直しました。
「じゃあ、今日は最後までいます」
その後、くじ引きが始まりました。
順番が回ってきたお母さんは、箱から紙を1枚取り出しました。
開いた紙を見た瞬間、目を丸くします。
「えっ……当たりですか?」
紙には、役員に選ばれたことを示す赤い丸がついていました。
お母さんはしばらく紙を見つめていましたが、やがて小さく息を吐きました。
「……分かりました。やります」
会長は「ありがとうございます。よろしくお願いします」と頭を下げました。
集まりが終わり、私が資料を片づけていると、お母さんが近づいてきました。
「あの、去年はすみませんでした。私だけ帰っちゃって…」
「いえ。来年度のこと、分からないことがあれば聞いてくださいね」
「ありがとうございます。正直、ちょっと不安で」
「私も最初はそうでした。書類もまとめてあるので、お渡ししますね」
お母さんはほっとしたように笑いました。
去年のことを責めたいわけではありません。ただ、最初から全員に同じルールがあれば、あんなモヤモヤも残らなかったのかもしれません。
今年は誰もくじを引かずに帰ることなく、役員決めが終わりました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














