【卒業式での失敗】卒業式で保護者を案内した新任教師。だが、新任教師が保護者全員に頭を下げた理由
卒業式の朝、先頭を歩いた新任の私
60代になった今でも、新任の年の卒業式はよく覚えています。
当時20代だった私の役目は、控え室で待っている保護者を、式場の体育館まで案内することでした。
控え室へ向かおうとしたところで、50代くらいの女性の先輩の先生に呼び止められました。
「案内、一人で大丈夫?手伝おうか」
「大丈夫です。席の場所も確認したので」
そう答えた私は、すっかり分かったつもりになっていました。
控え室では、保護者たちが式次第を手に、落ち着かない様子で待っていました。私は少し緊張しながら声をかけます。
「お待たせしました。体育館へご案内します」
長い廊下を、私は先頭になって歩きました。後ろから何十人もの足音が続きます。大勢の人を案内するのは初めてで、間違えないようにと、そればかり考えていました。
入口の先輩が、そっと私を呼んだ
体育館には、札のないパイプいすが何列も並んでいました。私は前方の席を示し、保護者たちに座ってもらいました。
皆さんが前から順に座っていくのを見届け、私は壁ぎわの自分の場所へ戻りました。
ほっとしたのも束の間、体育館の入口に立っていた先輩の先生と目が合いました。
先輩は表情を変えないまま、手招きしています。
近づくと、周囲に聞こえないような声で言われました。
「前の3列は、卒業生の席ですよ」
「えっ…保護者席じゃないんですか」
「保護者は4列目から。入場曲まで、あと3分よ」
一瞬、頭が真っ白になりました。
振り返ると、卒業生が座るはずの前3列には、私が案内した保護者たちがきれいに並んでいます。
私は慌てて前方へ向かいました。
「申し訳ありません。こちらではなく、後ろの席へお願いできますか」
一列ずつ頭を下げて回ると、保護者たちは事情を察して席を立ってくれました。
「あら、そうなのね」
「先生も大変ですね」
そんな声をかけてもらいながら、どうにか全員に移動してもらいます。
最後の保護者が座った直後、体育館に入場曲が流れ始めました。間に合った安心と恥ずかしさで、式が始まってからもしばらく胸の鼓動が収まりませんでした。
翌年からは、卒業式で保護者を控え室から案内する係そのものがなくなりました。受付を済ませた保護者が、自分で体育館へ入る方法に変わったのです。
新しい手順の紙を配りながら、あの先輩の先生がぽつりと言いました。
「案内がないほうが、早く座れるのよね」
私は前年のことを思い出し、苦笑いするしかありませんでした。今でも卒業式と聞くと、あの3列のパイプいすを思い出します。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














