「このベビーカーも、まだ使えるわよ」年季物を押し付ける義姉を、義母がやんわり止めてくれた一言
七年前のベビー用品
第一子を出産して間もない頃のことです。夫の姉から、うれしい申し出がありました。もう使わないベビー用品を、うちに譲ってくれるというのです。
「大きい物は買うと高いから、うちのを使いなよ」
「本当ですか。ありがとうございます、助かります」
私は思わず声を弾ませました。ベビーカーやベビーベッド、キッズチェアといった、かさばる品ばかり。出費を抑えられると聞いて、その時はただただ甘えるつもりでいたのです。
けれど、玄関先まで運ばれてきた荷物を前に、私は返す言葉を失いました。
義姉の上の子は、うちの子より七歳も年上です。つまり、どの品も七年という歳月を、まるまるくぐり抜けてきたものばかりでした。
ベビーカーのシートはくたびれ、タイヤはすり減っています。ベッドの木肌は日に焼け、椅子のベルトはほつれかけていました。
「このベビーカーも、まだ使えるわよ」
私が黙っているのを見て、義姉は一台を軽く押しながら言いました。悪気などまるでない、その明るさが、かえって私を追い詰めていきます。
義母が止めてくれた夜
横で見ていた義母が、静かに口を挟んでくれました。
「そんなに古いものを、無理に渡すものじゃないでしょう」
穏やかな声でしたが、その言葉には芯がありました。義姉が「でも、捨てるのはもったいないし」と続けようとすると、義母はやわらかく、けれどはっきりと言葉を重ねます。
「この子にも、置き場所の都合ってものがあるのよ。よかれと思ったことでも、押しつけになったら意味がないでしょう」
娘をたしなめながらも、どこか包み込むような言い方でした。声を荒らげるでも責めるでもなく、道理をそっと諭す一言だったのです。
「……そうね。ごめんなさい、勝手に盛り上がっちゃって」
義姉の勢いが、ゆっくりと引いていきます。強い口調でやり合っていたら、きっとこうはならなかったでしょう。義母の一言が、こじれかけた空気を静かにほどいてくれたのです。
「お気持ちだけで、本当に十分です。ありがとうございます」
私はそう伝えて、頭を下げました。そのうえで、まだしっかりしていたキッズチェアだけを、ありがたく譲り受けることにしたのです。
「これ、ちょうど探していたんです。大切に使いますね」
そう言い添えると、義姉の顔にも、ようやくほっとした笑みが戻りました。全部を押しつけるでも断るでもなく、ちょうどよい落としどころに収まった瞬間でした。
帰り際、義母が「困ったことがあったら、いつでも言うのよ」と、そっと微笑みかけてくれました。その気遣いが、どんな品物よりもうれしくて。がらんとしていたはずの帰り道が、その夜はなぜだか温かく感じられたのでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














