「次の駅から連れが乗るんです」電車で隣の席に鞄を置いた男性。だが、連れの女性が座らなかった理由
隣の席には、黒い鞄が置かれていた
もう何年も前の夕方、仕事帰りに快速電車へ乗ったときのことです。
ホームには長い列ができていて、私が乗り込んだころには座席のほとんどが埋まっていました。
立っている人も少しずつ増えています。
そんな中、席の一つだけ、人ではなく黒い鞄が置かれていました。
隣には少し年配の男性が座っています。
近くに立っていた若い男性が、少し迷ったあと声をかけました。
「すみません。ここ、座ってもいいですか?」
すると男性は鞄に手を添えながら答えました。
「あ、すみません。次の駅から連れが乗ってくるんです。ここに座る予定で」
若い男性は一瞬席を見ましたが、「そうですか」とだけ返し、そのまま近くに立ちました。
男性は何度か窓の外を見ながら、次の駅を待っていました。
「ずっと荷物を置いてたの?」
数分後、電車が次の駅に着きました。
扉が開くと、大勢の人と一緒に一人の女性が乗ってきました。男性は女性に気づくと、少しうれしそうに手を上げます。
「こっち。席、取っておいたよ」
そう言って、隣に置いていた黒い鞄を持ち上げました。
ところが女性は、すぐには座りませんでした。
空いた席と、その周りに立っている人たちを見て、男性に聞きました。
「え、もしかしてずっと荷物を置いてたの?」
「うん。だって一緒に座ろうと思って」
男性は悪びれる様子もなく答えました。どうやら、本当にそれで問題ないと思っていたようです。
女性は少し困った顔をしました。
「気持ちはありがたいけど、こんなに混んでるならいいよ。私、立つから」
「でも、せっかく取っておいたのに」
「次の駅から乗った私の席を、前の駅から空けておくのは違うでしょ」
女性はそう言うと、近くに立っていた若い男性へ「どうぞ」と声をかけました。
若い男性は少し戸惑いながらも、「ありがとうございます」と座りました。
男性は何も言わず、黒い鞄を膝の上に載せました。
電車が動き始めてしばらくすると、男性が女性に小さな声で言いました。
「一緒に座れると思ったんだけどな」
女性は少し笑って答えました。
「次は私も最初から並ぶよ」
男性にも、連れと一緒に座りたいという理由はあったのでしょう。ただ、混んだ車内で一席を空け続けることとは別の話です。
誰かが怒鳴ることもなく、黒い鞄が膝の上に移っただけ。それでも、その一席をめぐるやり取りが妙に心に残った夕方でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














