「車が来るから危ないよ」声をかけても遊び続けた子ども。数日後、友達にかけた一言に驚いた
「ちゃんとよけてるよ」と返ってきた
うちの前の道は、車がやっと一台通れるくらいの幅しかない。
両側を塀に挟まれ、少し曲がっているため、車のほうも歩いている人のほうも、近づくまで相手に気づきにくい。
放課後になると、近所の子どもたちがそこで遊ぶことがあった。
洗濯物を取り込みながら見ていると、車が来るたびに端へ寄り、通り過ぎるとまた道の真ん中へ戻っていく。
その日も、ボールが塀に当たって跳ね返り、道路の中央へ転がった。
思わず窓から声をかけた。
「ねえ、車が来るから危ないよ」
子どもたちはこちらを見て、「はーい」と返した。けれど、少しするとまた同じように遊び始めた。
またボールが道の真ん中へ転がったので、今度は外へ出た。
「ほんとに気をつけてね。車が来るから危ないよ」
すると一人の子が、少し不満そうな顔をした。
「でも、ちゃんとよけてるよ」
「うん、よけてるのは見てるよ。でも、車が見えてからじゃ間に合わないこともあるの」
子どもはきょとんとしていた。
それでもボールを地面に置こうとしたので、私はもう一度近くまで行き、しゃがんで目線を合わせた。
「もう一回だけ言うね。車が来るから危ないんだよ。ここから向こうの車、見える?」
子どもは道の先をのぞき込んだ。
「…見えない」
「でしょ?向こうの車からも、こっちが見えにくいの。ボールを追いかけて急に出たら、運転してる人もびっくりするから」
子どもは抱えていたボールを見下ろした。
「そんなに見えないの?」
「うん。だから心配なんだよ」
少し黙ったあと、その子は「わかった」と小さく答え、ボールを抱えて自分の家のほうへ戻っていった。
結局、「車が来るから危ない」ということを、言い方を変えながら伝えることになった。
しばらくすると、その子の保護者が外へ出てきた。
私は、道路で遊んでいたことと、この場所は車から子どもが見えにくいのが気になったことを伝えた。
相手は少し困ったような顔をした。
「あの…危ないのは分かるんですけど」
そこで一度言葉を切った。
「できれば、うちの子に直接言うんじゃなくて、何かあったら私に声をかけてもらえますか」
「あ…すみません。ボールが道路に出たので、危ないと思って」
「はい。それは分かるんですけど…お願いします」
怒鳴られたわけではない。それでも、これ以上話しても気まずくなるだけだと思った。
「分かりました」
そう答えて家へ戻ったものの、私はしばらく落ち着かなかった。
余計なことをしたのだろうか。それでも、もし本当に車とぶつかったらと思うと、黙って見ていることもできなかった。
車が3台続いた夕方
それから何日かたった夕方、台所にいると外から子どもたちの声が聞こえた。
窓を見ると、道の向こうから一台の車が近づいてきていた。
あの日の子がボールを抱えたまま、さっと塀ぎわへ下がった。
「ねえ、こっち来て!車来てる!」
ほかの子が一台目を見送り、道へ戻ろうとした。
「もう行ったよ」
すると、あの子が慌てて止めた。
「待って。まだ後ろにもいるよ」
もう一人が道の先を見た。
「あ、本当だ」
「ここ、車から見えにくいんだって。だからまだ出ないほうがいいよ」
子どもたちはそのまま塀ぎわに寄り、三台すべてが通り過ぎるのを待った。
最後の一台が行ってから、あの子は少しだけ道の先をのぞいた。
「もう来てないね」
その言葉を聞いて、私は思わず窓辺で立ち止まった。
あの日は、ほとんど聞いていないように見えた。それでも、ちゃんと覚えていたらしい。
その子の家のほうを見ると、保護者も外に出ていた。
子どもたちが車を待っている様子を見たあと、こちらの窓に気づいたようだった。
目が合った。
相手は一瞬ためらったあと、静かに頭を下げた。
私も何も言わず、会釈を返した。
それから、その人が子どもの遊ぶ時間に外へ出て、様子を見ている姿を何度か見かけるようになった。
「車来てるよ。いったん端に寄ろう」
そんなふうに声をかけることもあった。
子どもたちも、以前より早く車に気づいて端へ寄るようになり、ボールを追って急に道へ飛び出す姿は見なくなった。
最初は届かなかったと思っていた言葉が、子どもの中には残っていた。
あの日、声をかけたことは無駄ではなかったのだと思う。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














