「今夜は子ども、家にいないんです」騒音を疑われた私。数日後、隣人が謝りに来た理由
言い返す前に、まず話を聞くことにした
以前の住まいは、廊下が全戸につながっている造りの建物だった。
四十代の私は子どもと二人で暮らしていたが、その夜だけは子どもが実家に泊まりに行っていた。
ひとりで遅い夕飯を食べていると、不意にインターホンが鳴った。
扉を開けると、立っていたのは隣の部屋の方だった。困っているような、少し険しい表情をしていた。
「すみません。さっきから走り回る音がしてて…少し静かにしてもらえませんか」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
「え…うちですか?」
「たぶん。こっちから、ずっとドンドン聞こえるんです」
心当たりはまったくない。ただ、いきなり「うちじゃありません」と返したら、余計に話がこじれそうな気がした。
「どんな音ですか?」
「子どもが走ってるみたいな音です。さっきから何度も」
私は思わず、静かな室内を振り返った。
「でも、今夜は子ども、家にいないんです」
「え?」
「実家に泊まりに行ってて。今ここにいるの、私だけなんですよ」
隣の方は少し黙った。それでも、まだ戸惑っている様子だった。
「そうなんですか…。でも、本当にこっちから聞こえる感じがして」
「音って、分かりにくいですよね。うちも前に、どこから聞こえてるんだろうって思ったことがあります」
数日後、隣人が廊下で足を止めた
玄関先で話したのは10分ほどだった。
その夜は子どもがいないこと。私はずっと居間に座っていたこと。建物の音は、思っている場所とは違うところから響いてくることもあるらしいこと。
分かっていることだけを順番に話すうちに、相手の口調も少しずつやわらいでいった。
「疑ってるわけじゃないんです。ただ、けっこう響いてて…」
「それは気になりますよね」
「急に来てしまって、すみません」
「いえ。私も気をつけてみます」
「分かりました」
その日は、それで別れた。
数日後、共用廊下でその方と顔を合わせた。
買い物袋を持っていた相手は、私を見ると「あの」と声をかけて足を止めた。
「この前の音なんですけど」
「はい」
「また聞こえたんです。それで今度は少し気をつけて聞いてみたら…どうも、そちら側からじゃなかったみたいで」
「そうだったんですね」
「はい。あのとき、てっきりそちらだと思い込んでました。すみませんでした」
少し気まずそうに頭を下げる姿を見て、私も肩の力が抜けた。
「大丈夫ですよ。音だけじゃ、分からないですもんね」
そう返すと、相手も少しほっとしたような顔をした。
「今度から、もう少し確かめてからにします」
「私もそうします」
隣の方は軽く会釈をして、自分の部屋へ戻っていった。
考えてみれば、私も廊下で大きな足音を聞いたとき、なんとなく「あの部屋かな」と思ったことがある。
見えない場所から聞こえる音だからこそ、思い込みは簡単に生まれる。あの夜、感情的に言い返さず、分かっていることだけを伝えてよかったと思っている。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














