「痛かったね。立てそう?」転んだ子に手を差し出した私。気づかなかった親が、帰り道で変えたこと
誰も、うしろを見ていなかった
その日は風のない昼下がりで、私は公園のベンチに座って時間をつぶしていた。
二十代の休日らしいことは何もしていない。缶コーヒーが温くなるまで、ただ人の出入りを眺めていた。
そこへ、大人二人と子ども二人の四人組が入ってきた。
少し気になったのは、歩くのがいちばん遅い下の子が、ひとりだけ後ろになっていたことだった。
大人二人は並んで歩きながら、手元の画面をのぞき込んでいる。
何かを見せ合っているらしく、時々笑い声も聞こえた。
下の子との距離は、少しずつ開いていった。
「ほら、ちゃんとついてきて」
大人の一人が、前を向いたまま声をかけた。
その直後だった。
下の子が小さな段差につまずき、両手をついて転んだ。そのまま地面に座り込み、砂のついた手を見つめている。
けれど前を歩く二人は、転んだことに気づいていないようだった。
「おいで。遅れちゃうよ」
もう一人の大人からも声が飛んだが、足は止まらなかった。
子どもは返事をしない。
そのとき、少し前を歩いていた上の子が振り返った。
「あ、転んでるよ」
その声に大人二人が振り向いた。
私もほとんど同時にベンチから立ち上がり、子どものほうへ歩いた。
3歩が、握った手で消えた
先に子どものそばまで着いた私は、少し離れたところでしゃがんだ。
「大丈夫?痛かったね」
子どもは黙ったまま、手のひらを見ていた。
急に知らない大人に声をかけられて驚いたのかもしれない。私は少し間を置いて、もう一度声をかけた。
「痛かったね。立てそう?」
すると、子どもが小さくうなずいた。
「…ころんだ」
「うん、見てたよ。びっくりしたね。手、貸そうか?」
差し出した指を、子どもがぎゅっと握った。
立ち上がったところで、砂利を踏む足音が近づいてきた。
「大丈夫?どこ痛い?」
先ほどの大人の一人が駆け戻り、子どもの前にしゃがんだ。
「ひざ…」
「ひざか。ちょっと見せて」
ひざには軽い擦り傷があり、砂がついていた。
大人は傷を確認すると、子どもの顔をのぞき込んだ。
「痛かったね。ごめんね、気づかなかった」
さっきまで手に持っていた画面は、もうポケットに入っていた。
それから私のほうを向き、少し慌てた様子で頭を下げた。
「すみません。声かけてもらって、ありがとうございました」
「いえ。立てたので、よかったです」
子どもはまだ少し不安そうな顔をしていたが、大人が手を差し出すと、今度はすぐに握った。
「ゆっくり行こうか」
「うん」
そこからは、その子の手を握ったまま、ゆっくり歩き始めた。もう一人の大人と上の子も、少し先へ行くことなく、その近くを歩いていた。
さっきまで空いていた数歩ぶんの距離は、握られた手のところでなくなっていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














