「椅子が一つしかないんだけど」窓ぎわの一人席で声を荒らげた女性。だが、帰り際に私へかけた一言とは
窓ぎわの席の前で上がった声
まだ学生だったころ、私はコーヒーの店でアルバイトをしていました。
一人で過ごすお客さんが多く、窓ぎわには基本的に一人用として、小さなテーブルに椅子を1脚だけ置いた席が並んでいました。
二人で使いたいお客さんには、空いているときなら椅子を追加して対応することもありました。
雨上がりの午後、豆の袋を棚に並べていると、二人連れのお客さんが窓ぎわの席の前で立ち止まりました。
すると女性が椅子を見て、急に声を上げました。
「ちょっと、椅子が一つしかないんだけど。二人なのにどうするの?」
突然の強い口調に驚きましたが、私はすぐに答えました。
「すみません。もう1脚お持ちしますね」
ところが女性は、納得できない様子でした。
「そうじゃなくて。二人で来てるんだから、最初から二つ置いておけばいいでしょう?」
私は言い返さず、近くの空いているテーブルから椅子を1脚移しました。
「こちらをお使いください」
店長が繰り返した説明
やり取りに気づいた店長が奥から出てきました。
「どうされました?」
女性は店長を見るなり、椅子を指しました。
「二人で座ろうとしたら、椅子が一つしかなかったんですよ。そんなの分からないじゃないですか」
店長は女性の話を聞いてから、落ち着いた声で答えました。
「分かりづらくて申し訳ありません。こちらは一人席なので椅子は1脚です。もう1脚必要な場合は、スタッフに声をかけていただければお持ちしています」
「それか、こちらで気づいた際には椅子をお出ししております」
「でも、初めて来た人には分からないでしょう?」
女性の声はまだ少し強いままでした。
店長は言い返すことなく、「そうですね」と一度うなずきました。
「ご案内が足りなかったかもしれません。ただ、こちらは一人席なので椅子は1脚です。今日はもう椅子をご用意しましたので、このままお使いください」
女性は何か言いかけましたが、少し間を置いて「…分かりました」と腰を下ろしました。
一緒にいた男性も、私たちに小さく頭を下げました。
帰り際に聞こえた一言
それから二人は飲み物を注文し、席では静かに話していました。
しばらくして帰るころ、私は近くのテーブルを片づけていました。
出口へ向かっていた女性が一度足を止め、私のほうを振り返りました。
「…さっき、ちょっと言いすぎたね。ごめんね」
思いがけない言葉に、私は少し驚きました。
「いえ、大丈夫です」
女性は軽く頭を下げ、一緒にいた男性と店を出ていきました。
閉店後、椅子を元の場所へ戻していると、店長が声をかけてきました。
「さっきはびっくりしたよね」
「はい。何て返せばいいのか、ちょっと焦りました」
すると店長は椅子の向きを整えながら言いました。
「怒っている人につられて、こっちまで強く言う必要はないからね。説明することだけ説明すればいいよ」
大きな声を向けられたときほど、こちらまで感情的にならない。その日の店長の対応は、学生だった私の記憶に今も残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














