「それまで立っててもらえます?」立っていた高齢女性。混雑する特急で座れなかった理由
真ん中の席をふさいだ大きな箱
3年前のお盆休み、私は1人で特急の自由席に乗っていた。3人掛けの窓際に座れたものの、途中から通路まで人が立つほど混み始めた。
ある駅で、50代くらいの男性が大きな段ボールを抱えて乗ってきた。男性は箱を真ん中の席に置き、自分は通路側へ座った。
窓際に私、真ん中に段ボール、通路側に男性という並びだった。
しばらくして、杖を持った高齢の女性が人をよけながら歩いてきた。揺れるたびに座席の背へ手を添えていて、立っているのもつらそうに見えた。
女性は段ボールを見て、男性に声をかけた。
「すみません。こちら、どなたか座られますか?」
「いや、荷物です。大きくて置くところがなくて」
「そうなんですね…」
女性が困ったように周囲を見回すと、男性は少し間を置いて言った。
「俺、次で降りるんで。悪いけど、それまで立っててもらえます?」
女性は「そうですか…」と小さく答え、そのまま通路に立った。
それでも男性は、女性がまだ席のそばにいるのが気になったのか、
「もうすぐ着きますから」
と付け加えた。
私は窓側で、そのやり取りを黙って見ていた。「荷物を移してもらえませんか」と言えばいいだけなのに、知らない人に声をかける勇気が出なかった。
車掌さんが箱を見て足を止めた
数分後、車掌さんが車内を回ってきた。
立っている女性のそばまで来ると、真ん中の席に置かれた段ボールを見て足を止めた。
「お客様、こちらのお荷物ですか?」
男性が「そうですけど」と答える。
「かなり混み合っていますので、恐れ入りますが、お席を空けていただけますか」
男性は箱を見ながら、少し困った顔をした。
「これ、大きいんですよ。ほかに置けなくて」
「置ける場所をご案内します。こちらでお手伝いしますね」
そう言われると、男性も「……分かりました」と立ち上がった。
車掌さんと男性は段ボールを持ち、車掌さんが案内した場所へ移した。男性が通路側の席へ戻ると、真ん中の席が空いた。
車掌さんは女性に「どうぞ」と声をかけた。
「ありがとうございます。助かります」
女性はほっとした表情で私の隣に腰を下ろし、杖を膝に立てかけた。
その後、次の駅に着くと、男性は段ボールを取りに行き、そのまま降りていった。大きな言い争いになることはなかった。
その晩、高校生の娘にこの話をすると、私は最後に「でも、お母さん何も言えなかったんだよね」とこぼした。
娘は少し考えてから言った。
「知らない人に直接言うのは怖いよ。でも、車掌さんに知らせるくらいならできたかもね」
「そうなんだよね。そのときは、そこまで頭が回らなかった」
次に同じような場面に出会ったら、無理に相手を注意しなくてもいい。ただ、困っている人がいることを車掌さんに伝えるくらいはできるかもしれない。あの日のことを思い出すたび、そう感じている。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














