「試着室で着ただけよ!」返品を求める女性客。店長が白いカバーを取り出すと、急に口をつぐんだ理由
返品のアウターから香った香水
10年ほど前の春、私は服のセレクトショップで新人アルバイトとして働いていました。
平日の夕方、20代後半くらいの女性客が、紙袋から春物の新作アウターを取り出し、レジ台に置きました。
「これ、返品したいの。やっぱりいらなくなって」
「かしこまりました。状態を確認しますね」
アウターを広げると、首元のタグの周りがうっすらと肌色にくすんでいました。
袖口からは、甘い香水の香りもします。
店内での試着によるものなのか、購入後についたものなのかは分かりません。
ただ、購入後に使用した商品の返品は、原則としてお断りしていました。
新人の私だけでは判断が難しく、売り場にいた店長を呼びました。
店長は商品を確認してから、私の隣に立って女性客に声をかけました。
「恐れ入ります。こちら、ご購入後に一度着られましたか?」
すると、女性客の表情が変わりました。
「試着室で着ただけよ!」
「そうでしたか。実は、首元に少し汚れがありまして…」
店長が説明しようとすると、女性客はさらに声を強めました。
「最初から汚れてたのよ。人を疑うなんて、どういう店なの!お金、全部返して!」
売り場にいた数人のお客様が、こちらを振り返りました。
私はどう返事をすればいいか分からず、店長の隣で立ち尽くしてしまいました。
白いカバーを見つめたまま黙った女性客
店長は落ち着いた声で答えました。
「ご不快な思いをさせて申し訳ありません。確認のため、こちらをご覧いただけますか」
そう言ってレジの下から取り出したのは、試着室でお渡ししている白い布のフェイスカバーでした。
「ご試着の際は、お化粧が服につかないよう、皆さまにこちらをお渡ししているんです」
店長はカバーを見せたあと、アウターの首元を指しました。
「こちらに汚れがあって、袖口にも香水の香りが残っています」
女性客は何か言い返そうとしましたが、口を閉じました。視線は店長の持つ白いカバーに向けられています。
店長はそのまま、穏やかな口調で続けました。
「いつ汚れがついたかまでは、こちらでも断定できません。ただ、先ほど『いらなくなった』とのことで返品をご希望でしたよね」
女性客は黙ったままでした。
「申し訳ありませんが、今の状態では、お客様都合の返品としてお受けすることはできないんです」
店長は声を荒らげることもなく、女性客の返事を待ちました。
しばらくして、女性客が小さく口を開きました。
「……もういいわよ」
女性客は赤い顔のまま目をそらし、アウターを紙袋に押し込むと、足早に店を出ていきました。
女性客の姿が見えなくなってから、店長は私の肩に軽く手を置きました。
「怖かったね。でも、汚れに気づいてくれて助かったよ」
「あのまま返品を受けなくてよかったです……」
「そうだね。迷ったら、また呼んでね」
店長はそう言って白いカバーをたたみ、レジの下へ戻しました。
私もようやく緊張が解け、ほっと息をつきました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














