「アイス食べたいよな?」子どもを味方につけて無料サービスを迫る常連客。だが、店長が静かに伝えた正論
気の抜けない常連客
学生時代、私は夜の飲食店でアルバイトをしていました。
お客さんの多くは仕事帰りの会社員で、無理な注文をする人はほとんどいませんでした。
ただ、一人だけ、対応するたびに緊張する常連客がいました。
40代くらいの男性で、ときどき家族や友人と来店します。
見た目に少し迫力があり、口調も強め。
おとなしそうなスタッフを何度も呼びつけることがありました。
私も何か言われないよう、飲み物はできるだけ早く運び、話しかけられれば笑顔で答えるようにしていました。
ある夜、その男性が小学生くらいの子どもと一緒に来店しました。
テーブル席でお酒を飲み、顔が赤くなってきたころ、通路にいた私を呼び止めました。
「おい、甘いものは何があるんだ?」
「デザートですね。こちらには…」
私はメニューにあるデザートを順番に読み上げました。
バニラアイスの名前を出したところで、男性がメニューを指でたたきました。
「これ、金取るの?」
「はい。メニューに書いてあるお値段です」
すると男性は鼻で笑いました。
「前に行った焼肉屋じゃ、アイスくらいタダで出してくれたぞ」
そして、こちらを見上げて言いました。
「ここもサービスしてくれよ」
「申し訳ありません。うちでは無料でお出ししていないんです」
できるだけ穏やかに答えましたが、男性は納得してくれませんでした。
子どもを味方につけた男性に
すると男性は、隣に座っていた子どものほうを向きました。
「アイス食べたいよな?」
子どもがこくんとうなずくと、男性はすぐ私に向き直りました。
「ほら、食べたいって言ってるだろ。子どもがかわいそうだろ」
まるで私が意地悪をして、子どもにアイスを食べさせないようにしているかのようでした。
近くの席にいた会社員たちも、気まずそうに箸を止めています。
子どもが食べたがっているのは分かります。でも、私の判断で無料にすることはできません。
「……少々お待ちください」
私はそう答えると、店長を呼びに行きました。
店長はすぐに通路へ出て、男性の正面に立ちました。私はそのすぐ後ろで、二人のやり取りを聞いていました。
「いつもありがとうございます。アイスは、メニューにあるお値段でお出ししています」
「だから、よその店じゃ無料なんだって!」
男性が強い口調で言い返します。
店長は落ち着いた声で答えました。
「無料で出しているお店があるのは知っています。でも、うちでは同じサービスはできません」
そして、少し間を置いて続けました。
「それと、スタッフに無理を言うのはやめていただけますか」
その言葉に、男性は口を開きかけたまま黙ってしまいました。
周りの席では、何人かのお客さんが小さくうなずいていました。
男性は落ち着かない様子で視線を動かすと、伝票をつかんで立ち上がりました。
結局、アイスは注文せず、そのまま会計を済ませて帰っていきました。
二人が座っていた席を片づけに行くと、テーブルの下には食べ物がたくさん落ちていました。
私がしゃがんで拾い始めると、店長も隣に膝をつき、床を拭き始めました。
「よく断ったね。あれでいいんだよ」
その何気ない言葉に、張りつめていた気持ちが緩みました。
店長から新しい掃除用の布を受け取り、私も「ありがとうございます」と答えました。
通路の向こうからは、会社員たちの笑い声がまた聞こえてきます。
無理な要求を断るのは、やっぱり怖いものです。それでも、店長がきちんと支えてくれたことが、何より心強く感じられた夜でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














