「やだ、やだ!」大切な物をなくして泣き止まない子供。だが、スタッフの対応に救われた瞬間
あきらめかけていた家族
友人との温泉旅行で、宿に着いたときのことだ。
チェックインの列に並んでいると、前のほうから小さな子どもの泣き声が聞こえてきた。
フロントの前では、両親が困った顔で子どもをなだめている。
「ここに来るまでの道で、落としちゃったみたいで」
母親がスタッフに説明していた。
子どもがずっと抱えていたぬいぐるみが、宿で荷物を下ろしたときにはなくなっていたという。
バスの中で落としたのか、停留所から宿まで歩く途中だったのかは分からない。移動中は荷物も多く、両親も気づかなかったようだった。
スタッフは、家族がどの停留所で降り、どの道を歩いてきたのかを確認していた。
「もう戻っても、たぶん見つからないよ」
父親が子どもにそう言い聞かせる。責めるような口調ではなく、疲れた声だった。
外は暗くなり始めていた。着いたばかりで荷物もある。探しに戻ったところで見つかる保証もない。あきらめてもらうしかないという気持ちも分かる気がした。
「やだ、やだ!」
それでも子どもは首を振り、母親に抱かれながら泣き続けていた。
スタッフが口にした一言
家族の手続きが終わり、チェックインの列も途切れたころだった。
先ほど話を聞いていたスタッフが、もう一度家族のところへやってきた。
「バス通りまで戻って、探してきますね」
特別に力の入った言い方ではなかった。まるで当たり前のことのようにそう告げると、上着を羽織って玄関へ向かった。
「じゃあ、私も行きます」
父親もすぐに立ち上がり、スタッフと一緒に外へ出ていった。母親と子どもはロビーに残り、帰りを待つことになった。
「あんなふうに動いてくれるんだね」
友人が小さな声で言った。私も驚いていた。ただ、暗くなりかけた道で、本当に見つかるのだろうかとも思った。
私たちがチェックインを済ませ、鍵を受け取って階段へ向かおうとしたときだった。
玄関のドアが開き、父親とスタッフが戻ってきた。
「あったよ!」
父親の手には、探していたぬいぐるみがあった。
それを見た子どもは母親の腕から降り、駆け寄ってぬいぐるみを抱きしめた。さっきまで泣いていたのが嘘のような笑顔だった。
両親が何度も頭を下げると、スタッフは少し照れたように笑い、またフロントへ戻っていった。
旅先では、なくした物ひとつでも心細さが大きくなる。あのとき迷わず動いてくれたスタッフの姿を、私は今でも覚えている。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














