「あれ、ちょっと危ないね」子どものそばで続いた傘の素振り。だが、駅員が声をかけた瞬間
列のすぐそばで、傘が何度も動いていた
「電車、まだ?」
ホームの列の先頭で、小さな子どもが背伸びをしました。隣にいた母親が、その手を握り直します。
「もうすぐだよ。ここで待ってようね」
私はその親子の後ろに並んでいました。雨上がりだったため、ホームには濡れた傘を持った人が多く、帰宅時間と重なって列も少しずつ長くなっていました。
そんな中、列の先頭から一、二歩ほど横に離れたところにいた男性の動きが目に入りました。
男性は閉じた傘を両手で握り、ゴルフクラブのように構えていました。そして足元を確かめるようにして、ゆっくりと何度も振っています。
大きく振り回しているわけではありません。待ち時間の手持ち無沙汰で、軽く素振りをしているだけのようにも見えました。
ただ、傘は本人が思っている以上に長いものです。
振った先には、列の先頭にいる子どもがいました。今は届いていなくても、男性が一歩動いたり、傘が手から滑ったりすれば危ない距離です。
隣にいた人も男性のほうを見て、小さな声で言いました。
「あれ、ちょっと危ないね…」
私も同じことを思っていました。
けれど、知らない人へいきなり注意するのはためらわれます。男性に悪気があるようにも見えず、かえって話がこじれたらと思うと、なかなか声をかけられませんでした。
巡回してきた駅員が足を止めた
そのとき、ホームを歩いていた駅員がこちらへ近づいてきました。
列の様子を確認しながら巡回していたようでしたが、男性が傘を振っているのを見ると、そのそばで足を止めました。
「すみません。傘を振るのは危ないので、おやめください」
声をかけられた男性は、少し驚いたように振り返りました。
駅員が列の先頭にいる親子のほうへ視線を向けると、男性もそちらを見ます。
「あ…すみません。そんなに近いと思ってなくて」
男性はすぐに傘を下ろしました。
「お待ちの間は、傘を縦に持っていただけると助かります」
駅員はそれ以上責めることなく、そう伝えると再びホームの確認へ戻っていきました。
男性も小さく会釈をし、その後は傘を足元にまっすぐ立てて持っていました。
母親は子どもの手を握ったまま、通り過ぎる駅員へ「ありがとうございます」と小さく頭を下げます。
やがて電車がホームへ入り、私たちは順番に乗り込みました。
誰かが怪我をしたわけでも、大きな言い争いになったわけでもありません。ただ、本人には何気ない行動でも、場所によっては思わぬ危険になることがあります。
それを必要以上に責めず、危ない理由が伝わる形で声をかけた駅員の対応が、今でも印象に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














